本研究プロジェクトでは、回転とカイラリティとが組み合わさることによって発現される新奇現象に着目した研究を展開した。特に近年、高エネルギー原子核実験で、ふたつの原子核が中心軸からずれて衝突した際に、生成される粒子スピンが偏極していることが確認されている。この起源として、ずれ衝突した物理系がマクロに持っている角運動量や磁場が、粒子のスピン(磁気双極子モーメント)と結合するプロセスが考えられる。そのため高速回転や強磁場のもとでの物理状態の変化を解明することが重要な課題であった。 ここで得られた実績は大きく3つに分類される。ひとつはスピン自由度を含む相対論的流体方程式の構築である。相対論的流体力学にスピン自由度を取り込む問題は、そもそも相対論的なスピン同定が困難であることからも分かるように、一筋縄ではいかない。この問題はエネルギー運動量テンソルの不定性にも関係している。従来はエネルギー運動量テンソルの反対称成分がスピン自由度に対応すると考えられていたが、本研究プロジェクトの成果により、対称化されたエネルギー運動量テンソルからも等価な流体方程式が得られることを示すことができた。 また回転と相転移の関係を2つ目の成果として挙げておきたい。回転はエネルギーをシフトさせるため、あたかも粒子と反粒子を区別しない化学ポテンシャルのように見なせる。そのため角速度を変化させたときのカイラル相転移や非閉じ込め相転移に関する相図を考えることができ、我々は回転系の相図研究で世界最先端の手法開発に成功した。 最後に挙げる成果は、強磁場の効果である。磁場とカイラリティが結合することでバリオン密度がトポロジー不変量と結びつき、中性子星深部の核物質は非一様構造を示す可能性がある。強磁場中でのスキルム模型を数値的に解き、バリオンや核物質のトポロジカルな構造変化を世界で初めて理論的に実証することができた。
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