研究課題
本研究の目的は、宇宙誕生直後のインフレーション時に生成された原始重力波を地上において検出するための全く新しい手法を開発することである。その方法としては、以前に研究代表者らが考案した変位雑音キャンセル法に、中性子干渉計を組み合わせて、低周波帯において感度を著しく改善することが可能であるかどうかを理論的・実験的に見極める事である。2022年度は、理論面では、まず、単一のマッハツェンダー干渉計に、異なる速度をもつ4群の中性子を片側から入射する方式について、干渉計の重力波に対する周波数応答やショットノイズによって制限される感度についての詳細な検討を行った。次に、マッハツェンダー干渉計の出口のビームスプリッターを鏡で置き換えたサニヤック型干渉計に、異なる速度をもつ4群の中性子を入射する方式についての検討を行った。その結果、ショットノイズによって制限される感度は、予想通りほぼ2倍に改善された。実験面では、変位雑音フリー中性子干渉計のJ-PARCでの原理実証実験のために、重力波信号や鏡の変位信号を模擬するための中性子の位相のアクチュエーターのプロトタイプの詳細設計を行い、そのプロトタイプを製作した。アクチュエーターは、ジグザグタイプのアルミ板の角度をピエゾ素子で上限300 Hzの周波数で振動させる装置であり、6つのユニットから構成される。今年度は、プロトタイプとして1つのユニットを製作し、ピエゾ素子自体の効率や、そのピエゾ素子によって振動するジグザグのアルミ板の振動特性などを測定した。結果として、振動の振幅や周波数特性が原理検証実験のための設計に沿ったものであることを確認した。
3: やや遅れている
理論面では、まず、単一のマッハツェンダー干渉計に、異なる速度をもつ4群の中性子を片側から入射する方式についての詳細な検討を行うことができた。また、マッハツェンダー干渉計の出口のビームスプリッターを鏡で置き換えたサニヤック型干渉計の詳細な検討も行うことができた。したがって、理論面に関しては当初の計画以上に進展しているといえる。実験面では、まず、J-PARCでの原理実証実験のための、アクチュエーターの詳細設計を行うことができた。また、6つのユニットから構成されるアクチュエーターの1つのユニットを製作し、その特性を測定し、原理検証実験のための設計に沿ったものであることを確認できた。しかし、6つ全てのユニットを製作し、その特性を確認し、アクチュエーターを完成させ、実際にJ-PARCにおいて原理検証実験を行うことはできなかった。したがって実験面に関しては当初の計画より遅れているといえる。以上の状況により、全体としては当初の予定よりやや遅れていると判断する。
理論面では、マッハツェンダー干渉計の出口のビームスプリッターを鏡で置き換えたサニヤック型干渉計の詳細な検討の結果を論文として投稿する。そして、レビューアーのコメントに適切に対応し、最終的にアクセプトされることを目指す。実験面では、まず、6つのユニットから構成されるアクチュエーターの残りの5ユニットを製作し、その特性を測定し、原理検証実験のための要求を満たすことを確認する。そして6つのユニットを統合しアクチュエーターを完成させる。次に、そのアクチュエーターを用いて実際にJ-PARCにおいて原理検証実験を行う。そして、データ解析を行い、変位雑音フリー中性子干渉計の原理が正しいことを確認する。また、その結果を参考にして、変位雑音フリー中性子干渉計の実現に向けての問題点を洗い出す。最終的に、それらの結果をまとめて論文に投稿する。そして、レビューアーのコメントに適切に対応し、最終的にアクセプトされることを目指す。
J-PARCでの原理検証実験のための装置の準備に予想以上に時間がかかってしまい、実験を行うまでには至らなかった。具体的には、中性子の速度を変調するためのアクチュエーターに関して、様々な要求項目を検討した結果、その機械的な構成が複雑なものにならざるを得ないことが判明した。またそれに伴って、装置の製作過程において使うジグを製作する必要も生じた。もちろん、アクチュエーターの製作自体にも時間がかかるようになった。このようなことから、アクチュエーターの設計と製作に遅れが生じた。次年度は、6つのユニットから構成されるアクチュエーターの残りの5ユニットを製作し、その特性を測定し、原理検証実験のための要求を満たすことを確認する。そして6つのユニットを統合しアクチュエーターを完成させる。次に、そのアクチュエーターを用いて実際にJ-PARCにおいて原理検証実験を行う。そして、データ解析を行い、変位雑音フリー中性子干渉計の原理が正しいことを確認する。
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Phys. Lett. A
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