研究課題/領域番号 |
19K21876
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 裕彦 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (50249900)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 熱外中性子 / 中性子反射光学 / 中性子回折 / 精密加工 |
研究実績の概要 |
J-PARCのパルス中性子源の稼働によってもたらされた熱外中性子の利用を実用的な水準に引き上げるために、熱外中性子の反射光学系を実用化することを目的として、平坦度が高く再現性の良い中性子ミラーの製作及び評価技術を研究する。そのためには多数の薄い平板ミラーの平行配置が有効と考えて検討した結果、金属基板ミラーが最も有望であると見込んだ。金属表面は機械加工で十分な平坦度を達成する能力を持つ理化学研究所と協力して研究することとし、評価技術の検討に進んだ。本研究で対象とするエネルギー領域はおよそ1eVのオーダーであり、熱中性子に比べて一桁ほど速度が速い。それに応じて反射角は1/10程度に小さくなるため、中性子反射を実測して評価するためには、通常よりもビーム発散が抑制された熱外中性子ビームを用意することが必要となる。そこで、熱外中性子ビームをコリメータで絞った上で、単結晶回折によって平行化する方法を採用することとし、J-PARCのパルス中性子ビームを用いて評価システムを構築することとした。これまでにJ-PARC MLF BL10 (NOBORU)において、パルス熱外中性子を用いてシリコン単結晶の回折像を二次元像として捉える測定を行い、熱外中性子反射の評価技術の基礎研究を行った。現在はその結果の解析を行なっており、これを基礎として熱外中性子の反射現象の実測を行って、実用化に結びつける予定である。なお、熱外中性子ビームの利用機会を得られなかった場合に備えて、広域の形状測定によって同様の結果を得る可能性の検討も並行して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題採択の後、J-PARCに提案を行いビームタイムを得ることができたので、熱外中性子反射を実測するためのセットアップをJ-PARC BL10 (NOBORU)において構築することとした。このセットアップでは、シリコン単結晶の高次回折を用いて熱外中性子ビームを平行化するが、その回折強度を実験的に確認することで、反射実測に必要なビームタイムを定量的に評価した。この測定は感染症対策でJ-PARCが停止する直前に部分的に実行することができたので、ある程度のデータが得られて回折強度の解析を進めているところであり、現状、概ね期待通りの性能に近い強度が得られたものと見られる。そこで解析結果を確定して、実測に進む検討を進めている。なお、以上の測定においては、回折像を二次元検出器での取得を実証できたので、反射を捉える基礎は確立できるものと見込んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画通り熱外中性子反射を実測する予定である。ただし、本年度にビームタイムを確保できるかどうかという点が最大の問題点である。海外の中性子ビーム利用も検討しているが、現状は明確な見通しが持てていない。そこで、熱外中性子ビームを用いた計測に相当するような形状測定の検討を進めている。ただし、熱外中性子ミラーとして実用するためには、中性子反射率をミラー表面全体の平均値として求める必要がある。中性子反射であればミラー表面全体の平均値が自然に実測できるのだが、形状測定で同等の信頼度の結果を得るためには表面上の多くの点での測定を統計的に評価する必要が出てくる。これを実行するために必要な時間が妥当な範囲に入るのかどうか注意深く検討した上で測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
中性子施設におけるビームタイム割り当ての見通しが不透明になった時期に、研究日程の組み直しに時間を要したため。
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