中性子の物質表面における全反射は、物質表面が完全な平面である限り、表面法線方向の中性子速度成分が物質固有の臨界速度に比べて小さい範囲において、入射中性子のエネルギーに依存せずに生じると考えられる。この現象は、熱中性子や冷中性子あるいはそれよりも低速の中性子に対して、光学的制御に用いられており、中性子ビームの利用効率の大幅な向上に寄与している。また一方で大強度陽子加速器を用いたスパレーション中性子源では、運動エネルギーが熱中性子葉理も大きな近熱外領域における中性子利用可能性が大きく広がってきており、中性子反射光学の適用範囲を近熱外領域に拡大することで、従来になかった高効率の熱外中性子利用が新たに開拓できる。本研究では、熱外中性子の全反射現象を確認することを目的としている。極めて小さな熱外中性子の全反射臨界角を実験的に確認するために、まず、単結晶シリコンによる高次回折を用いることで平行度の高い熱外中性子ビームを用意した。実際はJ-PARC MLF BL10 (NOBORU) において実施した。単結晶シリコンによる中性子回折のうち<333>から<999>を利用し、対応する中性子エネルギーは77meVから695meVであった。このビームを多層膜中性子ミラーに入射させ、これらの熱外中性子ビームの鏡面反射を実測することに成功し、前例のない500meV以上の近熱外中性子の全反射を観測した。この結果は論文の形でまとめ終わっており、間もなく投稿する。当初の見積通り、現在の精密機械加工の水準で問題なく近熱外反射工学を構成できることが実証されたことで、熱外中性子を用いた中性子吸収による複合核過程を利用した物理研究、熱外中性子非弾性散乱にによる物性物理あるいは化学研究における利用の拡大を図ることが可能となった。
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