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2023 年度 実施状況報告書

X線干渉計に向け超伝導遷移端型カロリメータを応用する高位置精度X線検出器の開発

研究課題

研究課題/領域番号 19K21884
研究機関大阪大学

研究代表者

野田 博文  大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50725900)

研究分担者 林 佑  立教大学, 理学部, 助教 (00846842)
武井 大  国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 客員研究員 (10709372)
研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2025-03-31
キーワードX線干渉計 / 超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータ / ブラックホール
研究実績の概要

数m程度のサイズの1台の人工衛星に搭載できる宇宙X線干渉計の実現に向け、一個のX線吸収体(1.2 mm × 20 μm × 1 μm)で二個のTi/Au(40 nm/90 nm)超伝導遷移端型マイクロカロリメータ(TES; 140 μm × 140 μm)を接続し、それぞれのTESパルスのrising edgeの時間差を測定することでX線光子の入射した位置を特定するセンサーを開発している。当該年度は、製作したセンサーを~100 mKに冷却しながら55Fe線源による X線の照射を行なって得られた二個のTESのパルス波形データの詳細な解析を進めた。これまではパルスがベースラインから立ち上がる際に、閾値を超えた時間をrising edgeとみなして光子の入射位置に対応するパルス波高値ごとに異なる時間差が生じていることを明らかにしたが、このセンサーの性質上、一個のX線光子のエネルギーを二個のTESに分割して読み出すため、光子が落ちた場所ごとにパルス波形が変化する。さらに、X線吸収体の不均一性などに伴い、パルスごとに波形がばらつく様子も見られた。そこで、パルスそれぞれの異なる立ち上がり波形を個別にフィットし、それを外挿することで個別のパルス波形にできるだけ依存しない形でrising edgeを見積もる解析方法の開発を進めた。また、この実験の結果を踏まえて、高位置精度X線センサーのデザインに改良を加え、素子を製作するためのフォトマスクの設計を進めると同時に、コリメータを取り付けてX線光子の入射位置を制限しながらrising edgeとの関係を調べるための極低温実験に向けてX線発生装置の設計も行った。国内学会や国際研究会に参加し、様々な波長の高空間分解能による観測結果について情報収集を行い、宇宙X線干渉計の最適なターゲットの候補の選定も進めることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまでに、高位置精度X線センサーを実際に製作することができ、極低温冷却システムを用いてセンサーを~100 mKに冷却した状態で55Fe線源を用いたX線照射実験を行い、光子の入射位置に応じて2つのTESのパルスのrising edgeに時間差が生じることまで確認できた。しかし、製作したセンサーを冷却実験の後常温に戻した際、X線吸収体と超伝導遷移端型センサーの導通が確認できず、接続が切れてしまうケースが見られるなどの新たな課題が生じた。また、X線吸収体の不均一性に伴うと考えられる波形のばらつきも確認された。そこで、当該年度は、これらの課題に対し、X線吸収体の形状を変えるなど、センサーのデザインを一部改良するなどの対策を進めることができた。また、波形のばらつきを完全に無くすことは困難であるため、パルスごとに異なる立ち上がり波形のばらつきに左右されないrising edgeの評価方法の開発に取り組み、このセンサー特有の解析手法を進展させることができた。このように、高位置精度X線センサーのデザインの改良を施し、この解析手法を進展させることができたとともに、宇宙X線干渉計による具体的な観測の検討も進められているため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。

今後の研究の推進方策

前回の実験の際には、55Fe線源からのX線をセンサー全面に当て、パルス波高値が入射位置に対応して変化することを利用して、パルス波高値と時間差の相関を調べたが、すでに製作済みのコリメータを通してX線の入射位置を制限しながら照射を行うことで、実際の光子の入射位置とrising edgeの時間差の関係を調べることができる。コリメータを通しても十分な統計が得られる必要があるため、極低温実験にも使用できるX線発生装置が必要となる。当該年度には、真空に保ったまま~0.7 keVから~14 keVの範囲の単色X線を自由に変更できるよう、複数の線源やターゲットを含むX線発生装置の具体的な設計を進め、デザインを固めた。そこで今後は、実際にこのX線発生装置を製作し、すでに応答が分かっているX線CCDカメラなどに取り付けてX線照射実験を行うことにより、X線の単色度合いや強度を定量化し、線源やターゲットの位置などの調整を行う。これらが完了したら、高位置精度X線センサーに、すでに製作を終えているコリメータを取り付け、X線発生装置を用いたX線照射実験を進める。これにより、前回のようにX線の全面照射ではなく、入射位置を制限した上でrising edgeの時間差との関係やエネルギー分解能の評価を行う。加えて、放射光にてTES型Xマイクロカロリメータを駆動させる実験に参加し、ビーム環境下でTESを高い性能で動作させるための方法を確立する。国内研究会や国際会議に参加し、本研究の成果を発表するとともに、宇宙X線干渉計で観測するのに適したブラックホール天体の候補をリストアップする。2023年9月7日に打ち上げた日本のX線天文衛星XRISM搭載X線マイクロカロリメータによる天体観測データの解析にも取り組み、本研究で開発するTES型X線マイクロカロリメータを応用した高位置精度X線センサーの解析手法の確立に役立てる。

次年度使用額が生じた理由

製作した高位置精度X線センサーを用いた冷却実験を行った後に常温に戻した際、X線吸収体と超伝導遷移端型X線マイクロカロリメータの接続が切れてしまうケースが見られたり、X線吸収体の不均一性が原因と見られるパルス波形のばらつきが大きいことが確認されたため、センサーのデザインを見直す必要が生じた。次年度は、改良したデザインのセンサーの製作を進めるためのフォトマスクの費用や、宇宙科学研究所に滞在してセンサーの製作や冷却実験を行うための旅費などが必要となる。また、センサーの再設計を優先したことで極低温実験用のX線発生装置の製作を次年度に延期したため、次年度にこのX線発生装置を製作するための費用が必要となる。X線発生装置を用いた高位置精度X線センサーの冷却実験を行なったパルスデータを保存・解析するためのサーバも不可欠なため、その購入費も必要となる。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Coevolution and Nuclear Structure in the Dwarf Galaxy POX 52 Studied by Multiwavelength Data from Radio to X-Ray2023

    • 著者名/発表者名
      Kawamuro Taiki、Ricci Claudio、Yamada Satoshi、Noda Hirofumi、Li Ruancun、Temple Matthew J.、Tortosa Alessia
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 960 ページ: 15~15

    • DOI

      10.3847/1538-4357/ad0972

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Decomposing the Spectrum of Ultraluminous X-Ray Pulsar NGC 300 ULX-12023

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi Shogo B.、Noda Hirofumi、Enoto Teruaki、Kawashima Tomohisa、Inoue Akihiro、Ohsuga Ken
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 955 ページ: 124~124

    • DOI

      10.3847/1538-4357/acf0bb

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Multi-image x-ray interferometer module: I. Design concept and proof-of-concept experiments with fine-pitch slits2023

    • 著者名/発表者名
      Asakura Kazunori、Hayashida Kiyoshi、Kawabata Tomoki、Tomokage Yoneyama、Noda Hirofumi、Matsumoto Hironori、Tsunemi Hiroshi、Nakajima Hiroshi、Awaki Hisamitsu、Hiraga Junko S.
    • 雑誌名

      Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems

      巻: 9 ページ: 025004

    • DOI

      10.1117/1.jatis.9.2.025004

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] XRISM First Light and Science of Supermassive Black Holes2024

    • 著者名/発表者名
      Hirofumi Noda
    • 学会等名
      Black hole astrophysics with VLBI 2024
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Narrow Fe-Kα Reverberation Mapping Reveals the Presence of a Deactivated Broad-Line Region in a Changing-State AGN2023

    • 著者名/発表者名
      Hirofumi Noda, Taisei Mineta, Takeo Minezaki, Hiroaki Sameshima, Mitsuru Kokubo, Taiki Kawamuro, Satoshi Yamada, Takafumi Horiuchi, Hironori Matsumoto, Makoto Watanabe, Kumiko Morihana, Yoichi Itoh, Koji Kawabata, Yasushi Fukazawa
    • 学会等名
      The X-ray Universe 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] 巨大ブラックホール降着流の状態遷移とChanging-Look AGN2023

    • 著者名/発表者名
      野田博文
    • 学会等名
      宇宙プラズマの活動性~天体形成から高エネルギー現象まで~
    • 招待講演
  • [学会発表] X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission (XRISM) in Multi-Messenger Astronomy Era2023

    • 著者名/発表者名
      Hirofumi Noda
    • 学会等名
      The 1st annual conference of the creation of multi-messenger astrophysics
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] シミュレーションとの比較による AGNガス柱密度分布のばらつきの起源調査2023

    • 著者名/発表者名
      水越翔一郎, 工藤祐己, 和田桂一, 峰崎岳夫, 鮫島寛明, 小久保充, 野田博文
    • 学会等名
      日本天文学会 2023年秋季年会
  • [学会発表] XRISM衛星搭載Xtendに向け開発した 受光部外からの電荷侵入に強い新CCD駆動法22023

    • 著者名/発表者名
      青柳美緒, 野田博文,朝倉一統,善本真梨那, 大出優一 袴田知宏, 林田清, 常深博, 松本浩典, 金丸善朗, 鈴木寛大, 冨田洋, 宮﨑啓太郎, 楠康平, 森浩二, 米山友景, 田中孝明, 中嶋大, 信川正順, 青木悠馬, 信川久実子
    • 学会等名
      日本天文学会 2023年秋季年会
  • [学会発表] New CCD driving method of Xtend onboard the XRISM satellite for suppressing external charge intrusion2023

    • 著者名/発表者名
      Mio Aoyagi
    • 学会等名
      QBI2023
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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