有機化合物の安定同位体比(13C/12C,15N/14N等)の解析は,大気・陸・海洋と生物の間でおこる物質(もしくはエネルギー)収支,それらへの人間活動の影響評価,海洋や生物を介した二酸化炭素の吸収量の評価などの研究を行うための主要な科学ツールのひとつである。本研究の目的は,この「有機化合物の安定同位体比」の測定における長年の課題であった「誘導体化(化学修飾)に伴う同位体比の人為的改変」を克服する新たな手法の開発にチャレンジすることである。 本研究では,令和元年度に,(1)誘導体化における同位体比の改変の仕組みの把握を目的に,アシル化における,基質,誘導体化剤,生成物の間の濃度バランスと得られる同位体比の関係を実験的に明らかにした。また,(2)同位体比の改変は,ナノフルオロ吉草酸(Nonafluoropentanoic Acid)などの界面活性剤の添加により,劇的に軽減されることを明らかにした。 これに続いて,令和2年度には,有機溶媒との誘導体基の交換反応に挑戦し,実際に,試料のエステル基,アシル基を,有機溶媒のそれらと交換させることにより,誘導体化における同位体比の改変の影響を希釈できることを明らかにした。 これらの2年間の研究を通じて,有機化合物の誘導体化における安定同位体比の改変のメカニズムを明らかにし,改変の影響を著しく軽減,または希釈できる技術を確立することができた。また,得られた成果は,すでに,アミノ酸の安定同位体比測定における標準試料の作成に応用されている。
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