研究課題
太陽系の外惑星領域では、表層が氷に覆われた衛星が数多く存在する。氷は水に浮くため、表層が凍っていても内部には融けた領域が存在する可能性があり、内部海と呼ばれている。人工衛星による観測などによって、内部海が存在すると考えられているものにエウロパやエンセラダスなどがあるが、このうちエンセラダスでは内部海の物質が噴き上がる様子が観測されている。この様な噴出活動は氷火山と呼ばれている。さて、この様な内部海の物質は純粋な水ではなく、塩類が溶け込んだ塩水であると考えられている。衛星内部は高圧力の環境であるので、塩水の物性を高圧力下で調べることは内部の分化や氷火山活動を理解するうえで重要である。本研究課題は、物性測定のための技術開発を行うことを目的としている。初年度である2019年度は、高圧セルと圧力調整器を本研究予算で導入し、立ち上げを行った。メンブレン式の圧力調整器を用いることで、測定中に圧力を変化させる場合にステージからセルを取り外す必要が無いようにした。実験では高圧セルの内部に溶液と塩と酸化水酸化アルミニウム結晶を入れて圧力を加え、X線回折実験によって発生圧力を測定することができた。この際、セルに備え付けてある冷却水循環水路に不凍液を循環させ、セル全体を均一な温度に冷却できることを確認した。また、溶液の粘度測定用ステージおよび試料室を観察するための拡大光学系のセットアップを行い、粘度標準液を用いた予備実験に取り組んだ。以上のように、装置のセットアップと予備実験が順調に進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
2019年度に取り組んだ装置のセットアップと予備実験によって、本研究課題で目指す氷衛星内部海の圧力条件での水溶液の物性測定が実現できる見通しを得た。高圧セルは想定どおりの圧力発生・制御が可能であることを確認済みである。また、長焦点レンズとCMOSカメラを組み合わせた顕微光学システムを立ち上げ、高圧状態にある試料室の高分解能撮像を実現した。現在は装置の較正などに取り組んでおり、2020年度には計画していた測定に着手できる。
2019年度に立ち上げた装置を用いて、塩類を溶かした水溶液について高圧力下で粘度測定に取り組む。衛星内部海の圧力条件を想定し、10 MPaから1 GPaまでの圧力下で実験を行う。また、高圧力下の溶液について、ラマン分光測定を行う。これらの実験を通じて、氷衛星内部海と氷火山活動解明に向けた塩水溶液の物性測定技術を確立するとともに、実際の氷衛星内部海の研究へとシームレスに移行する。
研究計画書では高圧セルを2台購入することになっていたが、2019年度に1台購入して初期の実験を行い、別の性能を有する高圧セルを2020年度に購入することにしたために差額が生じた。本研究の実施計画からの変更は軽微なものである。2019年度の研究を踏まえて導入する装置を選定したため、本研究の遂行に適した精度の良い測定が可能な高性能の装置を導入することができる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 20件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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