研究課題/領域番号 |
19K21891
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
熊本 篤志 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00302076)
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研究分担者 |
宮本 英昭 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00312992)
西堀 俊幸 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 主幹研究開発員 (80280361)
土屋 史紀 東北大学, 理学研究科, 助教 (10302077)
石山 謙 鶴岡工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (90783902)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 小惑星 / 彗星 / 内部構造 / バイスタティックレーダ / 導電性バルーン / 地中レーダ / レーダサウンダ |
研究実績の概要 |
小天体(小惑星・彗星)の内部構造推定に有利なバイスタティックレーダ観測(送受信位置が異なるレーダ観測)を単独の探査機搭載レーダで実現するために,導電性バルーンを電波の中継器として用いる新手法の成立性を,土壌計測実験・計算機実験などの方法で検証する.2019年度は,土壌計測試験に利用するための地下探査レーダ試作機の製作を進めた.数kmスケールの小天体を50~150MHzで計測する実験を実スケールで行うことは難しいので,計測試験は縮小スケール(1~2mの深さの土壌を0.5~3GHzで計測)で行う.宇宙機搭載レーダの設計においては,GHz帯のAD・DA変換器の使用が難しいことから,本研究では送信・参照信号の生成にVCOを用いて,受信波と参照波の混合後にMHz帯の中間信号をサンプリングする方式を採用した.VCO方式を選択をしたことで,技術的な難易度が上がり,メーカによる試作機製造委託の見積額が想定額を超えたことから,試作機の製造委託は断念し,インハウスで試作機の製作を進めた.試作機の送受信機・アンテナは2019年度末時点で完成にこぎつけているが,両者を組み合わせた性能評価については2020年度前半での完了を見込んでいる. 並行して,計算機シミュレーションでも,縮小スケールの土壌計測実験を模擬したFDTDシミュレーションを進めるとともに,実スケールの小惑星観測を模擬したFDTDシミュレーション実施の準備として設定パラメータの検討を行った. 本研究の波及的な成果として,2020年3月のJAXA月極域探査機プリプロジェクトチームによる搭載観測機器の公募に対して「高分解能地中レーダ」(代表:東大・宮本英昭教授)の提案を行った際には,一部,本研究の土壌計測試験用のアナログ方式のレーダ試作機の検討成果も盛り込まれ,条件付採択(条件は技術面ではなく国際協力)に貢献した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時は,地下探査レーダ試作機の製作を,高周波機器の製造に経験をもつ業者に委託することで,研究のスピードアップを図る計画で,事前に概算の見積もりも得て,本経費の総額内でカバーできる目算だったが,その後の仕様の変更から,技術的難易度がやや上がったことによって,製作委託の見積額が上がってしまい,他の業者への打診も不調だったため,業者には委託せず,実験室で直接部品・資材を調達して製造するインハウス製作の方針に転換した.このため,2019年度に土壌計測試験に臨むことが可能なレーダ試作機を完成するという目標に対しては,一部,アンテナと組み合わせた性能確認の残作業を残すこととなった. 製造委託見積額が変わることになった仕様変更は,本研究課題開始後の検討によるもので,GHz帯の高周波でデジタルの波形生成・サンプリングを行う方式だと,宇宙機搭載が可能な耐環境性能の高い部品の選択肢がなく,一般の工業用部品を使用しても消費電力や機上の信号処理負荷の増加を招くことから,送信波はアナログ素子のVCO(電圧制御発振器)で生成して,受信波も低周波に周波数変換してサンプリングを行う方式をとるべき,という判断に至った.ただしこうしたアナログ方式のシステムはデジタル方式に比べると性能の見込みがつけにくく,製造委託を受けて性能保証をする立場からすると,追加の補正回路付加も想定する,等で見積額が上がってしまうことは理解できる. VCOを使用した送受信機試作機は,11月下旬からの限られた製造期間にかかわらず,3月末の時点で完成に至っている.補正回路等付加は行うことなく,所期の性能を確認できている.研究種目が基金で2・3月の部品・資材調達に障害がなかったことも,短期間の完成に貢献した.残作業のアンテナと組み合わせた評価についても,2020年度の前半中には完了できて,研究の遂行には影響を生じない見込みである.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に残作業となっていたレーダ送受信機試作機とアンテナを組み合わせた評価を,2020年度前半中には完了する.送受信機単体・アンテナ単体では所期の特性を確認できているので,両者組み合わせた性能評価でも大きな問題は生じないものと想定している.2020年度は土壌計測実験を行って,反射体を用いた小惑星探査を縮小スケールで模擬することを目標とする.小惑星探査ではレーダから放射した電磁パルスは小惑星内部を透過して,反対側の地表面に置かれた導電性バルーン付近から特に強いエコーが戻ってくることが期待されるので,1点で送受信を行うレーダ観測に比べて,小惑星内部のより多くの伝搬路で,電波の遅延を計測し,小惑星内部の誘電率分布の推定に有利となる.但し土壌計測試験では,無重力中に浮かんだ土壌隗を準備することは困難なので,砂場に導体球を埋めて,導体球の反射を経たエコー成分を用いて導体球上方の土壌の誘電率分布を推定する,業務用ポリバケツを土壌で満たして側面にレーダ・導体球を配置して計測・誘電率分布推定を行う,などの方法で計測実験を進めることを予定している. 並行して,2019年度に行った縮小スケールの土壌計測実験に合わせたFDTDシミュレーションに引き続き取り組み,土壌計測試験の結果と対比可能なシミュレーション結果を得ることを目指す.また,実スケールの小惑星探査を模擬したFDTDシミュレーションを進め,最低限要する水平分解能など,内部構造推定を行う上で重要な計測パラメータの検討を行う. 土壌計測試験,計算機シミュレーション双方の結果をもとに,小惑星探査における導電性バルーン等の反射体を用いる観測の有効性,内部構造推定に有効なレーダの仕様に関して結論を得ることで,将来の小惑星探査ミッションへのレーダ観測提案の指針を明らかにすることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費・旅費の支出が当初の想定を下回ったことによる. 物品費が残ったのは,2019年度に完了予定のレーダ試作機の製作において,残作業(送受信機とアンテナを組み合わせた評価)が生じ,これに要する支出を2019年度内に行わなかったためである.残作業は2020年度前半に完了予定で,2019年度に残した物品費をこの作業に充てることを予定している. 旅費が残ったのは,送受信機試作機の製造段階では,疑似ケーブル・疑似負荷等を用いた特性データで十分性能を確認できるので,仙台で予定していた打ち合わせを東京で行うことが多かったことによる.2020年度は,仙台近郊(蔵王)の東北大学の観測施設で,2019年度に残された送受信機・アンテナを組み合わせた性能評価,2020年度に予定していた土壌計測試験を行う計画である.2019年度に残した旅費は2020年度分と合わせて,これらの旅費に充てることを予定している.
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