研究課題/領域番号 |
19K21893
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 嘉夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10304396)
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研究分担者 |
山本 順司 北海道大学, 総合博物館, 准教授 (60378536)
板井 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60554467)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ルビジウム / 分子地球化学 / 同位体分析 / XAFS |
研究実績の概要 |
分子地球化学の重要な役割の1つに、元素の性質や化学反応特性に基づいて、化学種が変化する反応に着目することで新しい同位体ツールを開発することがある。これまで、ルビジウムイオン(Rb+)や他のアルカリ金属イオンは反応性が非常に低いという認識がされており、水-岩石相互作用におけるルビジウム(Rb)の同位体分別に関する研究は行われていない。しかし、層状珪酸塩との相互作用を考えると、アルカリ金属の反応性は低いとは言えない。 実際に、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の分析から、セシウム(Cs)は2:1型層状珪酸塩(バーミキュライト、モンモリロナイト、イライト)に内圏錯体として吸着されることが分かっている。この特異的な吸着構造はCsのイオン半径に起因すると考えられているため、Csとイオン半径が近いRbも層状珪酸塩上で内圏錯体を形成すると予測した。今年度は、天然環境でのRb同位体の分別現象を確認するために、河川水の溶存態および懸濁粒子のサンプリングを利根川で実施し、それらの試料についてもEXAFSでRbの存在状態を解析すると共に、MC-ICP-MSでδ87/85Rbを測定した。化学反応性が低いRbにおいて地球表層で同位体分別が生じるのは、内圏錯体を形成する吸着反応のみとみなせるため、河川系でのRb同位体分別に着目した。実際に利根川のδ87/85Rbは溶存態-懸濁粒子間で分別され、この同位体分別はイライトとバーミキュライトの室内実験系で観察された同位体分別と一致した。河川中の懸濁粒子は河口域でその大半が除去され、高いδ87/85Rb比を持つ河川水が海洋に流入し、海水中で新たな吸着反応を受けると考えられる。その結果、海水と海洋堆積物のδ87/85Rbは、河川系と海洋系の両方における層状珪酸塩への吸着反応を考慮することで説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然試料の分析では、通常のイオン交換法では分離が困難なカリウム(K)とRbを分離するため、高速液体クロマトグラフィーを用いた分離を確立する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている河川系および海水系での同位体を調べる際に行う天然試料の分析では、通常のイオン交換法では分離が困難なカリウム(K)とRbを分離するため、高速液体クロマトグラフィーを用いた分離を確立する必要がある。一部研究を進めているが、まだ十分な分離と多くの試料の分析が行える状況にはないので、さらに手法開発を進める。また今後、海水-堆積物系への幅広い応用を進める。今のところ、EXAFS分析により堆積岩中のRbも層状珪酸塩への内圏錯体を形成していることが明らかになっている。また、我々が過去に採取した海水-海洋堆積物系の試料でも、海洋堆積物と海水との間に分別(Δ87Rb海洋堆積物-海水= - 0.20‰)がみられた。これらの系でも85Rbが固相に濃集しており、室内実験で観察されたRb同位体分別は、実際の海洋環境でも見られることが分かる。一方、海水および海洋堆積物のδ87/85Rbはいずれも地殻平均値よりも有意に高く、δ87/85Rbは海洋に流入する前の河川で高くなっていることが示唆された。さらにこれらの結果を踏まえて、Rb安定同位体比の地球化学的応用の可能性として、地球表層の層状珪酸塩の生成の程度(風化度)、個々の水-岩石系の固液比(層状珪酸塩と河川水・海水の量比)、地殻由来物質のマントル物質中へのリサイクル成分の指標、などの地球化学ツールになると期待されるため、これらの応用研究への適用を図る。特に現在は、惑星表層での水-岩石反応、特に惑星進化の研究において重要な水-岩石比の推定を行うために、水質変成などが重要なCM型の炭素質コンドライト(Tagish Lake、Aguas Zarcas)などへの適用を図る。また可能であれば、はやぶさ2がもたらしたリュウグウ試料への適用も進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
塩素イオン等の主要イオンの濃度測定に使用するためのイオンクロマトグラフ測定装置に不測の故障が生じたため、当装置の修理・調整・動作確認が必要となり、塩素イオン等の主要イオンの濃度測定の開始までに時間を要したため。
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