研究課題/領域番号 |
19K21895
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小林 憲正 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20183808)
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研究分担者 |
三田 肇 福岡工業大学, 工学部, 教授 (00282301)
癸生川 陽子 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70725374)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 生命の起源 / がらくたワールド / 触媒活性 / ホモキラリティー / 高分子態有機物 |
研究実績の概要 |
従来の化学進化仮説においてはアミノ酸などの小分子が縮重合することにより生じた高分子の中に生化学的機能を有するものが生じ,そこから生命が誕生したとされてきた。本申請研究では,宇宙線などの高エネルギー現象によりまず高分子態有機物(がらくた分子)が生じ,これが有する微弱な生化学的機能が進化することにより生命が誕生したとする「がらくたワールド説」の検証を試みている。本年度は,(1)分子雲や(2)小天体内部を模擬した実験により生じる「アミノ酸前駆体」のキャラクタリゼーションにより,アミノ酸の機能を有する高分子態有機物の直接生成の検証と,その機能の測定を行った。(1)では一酸化炭素・アンモニア・水混合物に陽子線照射をしたもの(CAWと略記),(2)はホルムアルデヒド・アンモニア・水にガンマ線照射したもの(FAWと略記)を主に用いた。CAW, FAWを加水分解するとアミノ酸が生じるが,加水分解前にはアミノ酸は検出されず,生成したのは前駆体であることが確認された。前駆体をHPLCやLC/MS等でキャラクタリゼーションしたところ,従来考えられていたアミノニトリルやヒダントインは主でなく,分子量数百以上の高分子態のものが主であることがわかった。CAWにガンマ線などの種々の放射線を照射した場合,アミノニトリルやヒダントイン,遊離のアミノ酸よりも安定であることがわかった。また,アミノ酸(前駆体)以外にもCAW中には核酸塩基が,FAW中には糖が存在することがわかった。現在,CAWに低線量ガンマ線を長期間照射することにより,構造や機能(触媒活性など)がどう変化するかを調べているところである。また,アミノ酸のホモキラリティーに関しては,円偏光紫外線照射に加え,スピン偏極ミュオンの効果についても検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.宇宙でのアミノ酸(前駆体)の生成場所として,分子雲と小天体内部が重要と考え,それらの環境での反応の模擬実験を,タンデム加速器(陽子線照射)や60Co線源(ガンマ線照射)を用いて行った。さらに,その生成物を加水分解することによりアミノ酸が生成することを確認後,加水分解前の生成物のキャラクタリゼーション法を確立した。また,アミノ酸以外の重要な生体有機物である核酸塩基と糖の分析もHPLCやGC/MSを用いて行うことができた。 2.模擬実験で生成した有機物の機能として,(1)触媒活性と, (2)エナンチオ過剰に着目し,その評価法を検討した。(1)ではホスファターゼ活性の測定法を測定できるようにした。(2)では,アラニンなどを用いてエナンチオ過剰の創生法と検出法について検討した。シンクロトロン放射光施設を用いる円偏光照射や,高強度プロトン照射施設を用いるスピン偏極ミュオンの照射を行い,生成物をCDやGC/MSで分析することにより光学活性の評価法をつくった。 3.宇宙線などの高エネルギー現象により生じた有機物(CAWなど)が,その後の長期間の反応により変化していくようすを調べるため,CAWの長時間のγ線照射実験を開始した。その評価を次年度行う予定である。 4.初年度に行った実験結果より,一酸化炭素,アンモニアなどの単純な分子から高分子態の複雑なアミノ酸前駆体が核酸塩基などと同時に生成しうることが確認できた。このような種々の分子の混合物(がらくたワールド)が生成しうることは, これまで長く想定されていた,遊離アミノ酸などの小分子がまず生成し,それから順次より大きな分子に進化する,という古典的シナリオ以外の可能性を考える必要を強く示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
1.前年度と同様の方法で複雑態有機物(CAWやFAW)を合成した後,そのキャラクタリゼーションをさらに行い,アミノ酸前駆体の分子量などをより詳細に調べるととともに,がらくた分子プール中のアミノ酸(前駆体)や核酸塩基などの全有機炭素中に占める割合も評価する。またLC/Orbitrap-MS法などにより,がらくた分子プール中の分子多様性を評価する方法を確立する。 2.触媒機能としては,前年度測定を開始したホスファターゼ活性に加え,エステラーゼ活性,ペルオキシダーゼ活性など,始原的生物が必要とした触媒活性が無生物的に生成可能かどうかを調べる。 3.分子雲中で生成したがらくた分子プール(CAW)が,小天体中に取り込まれた後,長時間の低線量ガンマ線照射によりどのように変化していくかをモニターする。また,CAWやFAWが地球に届けられた後に原始海底熱水系においてどのように変化していくかを,フローリアクターを用いて検証する。分析法は1.2.で検討した方法や,FT-IR, XANESなどを用いる。 4.がらくた分子プールが円偏光紫外線(分子研UV-SOR)やスピン偏極粒子(J-PARCでのミュオン照射)の作用によりアミノ酸のエナンチオ過剰を生じうるかどうかの実験的検討を開始する。 5.以上の結果から,宇宙環境(星間,隕石母天体内)で生成したがらくた分子プールの機能(触媒活性,光学活性など)が,供給先の環境下で「進化」しうるかを検討し,地球上での生命の誕生にいたる新規化学進化シナリオとして「がらくたワールド仮説」をまとめて,論文として発表するとともに社会へのアウトリーチも行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会が中止となったため,未使用分が生じた。次年度,改めて成果発表旅費等として使用する予定である。
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