研究課題/領域番号 |
19K21897
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長谷川 浩 金沢大学, 物質化学系, 教授 (90253335)
|
研究分担者 |
澤井 光 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 助教 (30784962)
三木 理 金沢大学, 機械工学系, 教授 (70373777)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | ヒ素 / 有機金属化合物 / 水圏 / 藻類 / スペシエーション分析 |
研究実績の概要 |
本年度は「周囲の塩分環境によって植物プランクトンの代謝が変化し、ヒ素に対する無機-有機化学種変換能力が変化する」という挑戦的仮説を実証するために、複数の検証実験を実施して研究を進展させた。 1)ヒ素の還元・メチル化作用に対して影響する因子として従来から報告されていた培地中のリン酸イオン濃度、水温に注目して、塩分度との相乗効果を検討した。5価無機ヒ素とリン酸は化学的性質が類似することから、5価無機ヒ素とリン酸イオンはリン酸トランスポーターを経由して競争的に細胞内に取り込まれると考えられている。また、水温に応じて植物プランクトンの生物活性は大きく変化する。前年度の研究において、生育環境における塩分変化が植物プランクトンのヒ素代謝に及ぼす影響を世界に先駆けて報告したが、本年度は塩分に加えて培地中のヒ素/リン酸イオン比や水温を制御した培養実験により、塩分度に加えてリン酸イオン濃度、水温の環境因子が相乗的に寄与してヒ素の化学種変化を促進することを明らかにした。 2)上記のヒ素代謝を更に詳細なレベルで解析するために、新たなヒ素分画法の確立を進めた。藻体および培養液中のヒ素化学種を分離定量する手法として、高速液体クロマトグラフ四重極飛行時間型質量分析計を用いて同定・定量する方法を開発した。また、Ti-EDTA溶液による化学的洗浄法を用いて、植物プランクトンに取り込まれたヒ素を細胞表面に付着した画分と細胞内部に取り込まれた画分に分画して定量する方法を確立した。これらの分析法は、次年度の培養試験において、細胞膜を介したヒ素の取込量と放出量、細胞内化学種の実測濃度を解析する目的に適用する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究期間2年目を迎えた2020年度は論文6編がTOP10%ジャーナルを含む国際学術誌に受理されるとともに、国内外の学会における成果報告も積極的に進めることができた。以上の成果により、当初の計画以上に進展したと評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、最先端の化学形態別分析法を導入してヒ素化学種の挙動を観測し、植物プランクトンによるヒ素の有機化/蓄積/放出モデルの構築に取り組む予定である。前年度までに確立した還元気化原子吸光法や化学形態別分析法に加えて、大型放射光施設SPring8の放射光X線吸収分析法を利用して、細胞内外のヒ素を化学形態に分けて観測し、微細藻類の細胞内外におけるヒ素の取込量と放出量、細胞内化学種の実濃度を解析する。従来研究では、ヒ素の化学形態や存在する場所がほとんど考慮されていないので、本取組により一層の学術的進展が期待できる。 本研究では、更に、有機ヒ素生成や生体濃縮、細胞外への放出について、膜透過における擬一次反応式を仮定した化学種変換モデルを構築する。また、海洋性および淡水性植物プランクトンの複数種に対して前年度までに見い出した成果を検証し、塩分変化に対して現れるヒ素代謝への影響に関して生物多様性を検討する。以上より、特定の藻類がヒ素を蓄積したりメチルヒ素を放出する理論的根拠の解明に挑戦する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に計画した学会がコロナ問題のため中止になり、出張がキャンセルとなったため。
|