研究課題/領域番号 |
19K21898
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
ジェンキンズ ロバート 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (10451824)
|
研究分担者 |
長谷川 卓 金沢大学, 地球社会基盤学系, 教授 (50272943)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
キーワード | 化石化過程 / 化石成因論 / 鯨骨群集 / バクテリアマット / 硫酸還元 / 炭素循環 |
研究実績の概要 |
生物遺骸の分解は生態系の物質循環において欠かせないプロセスであると同時に,分解過程の一部で生じる化学反応が遺骸およびその周囲での鉱化作用を促進していると考えられている.本研究では,波浪の影響が少ない能登半島九十九湾の水深約10mに鯨類遺骸を設置し,その分解・鉱化過程を詳細に観察して,化石化過程・ノジュール形成過程を明らかにすることを目的としている. 初年度は,採水チューブをセットした枠に鯨類遺骸を固定して,海底に設置した.設置後,水質モニタリング装置による継続的な酸素・pHのモニタリングを行うと同時に,断続的にスキューバダイビングによる採水・観察を行った.軟組織が骨周囲に存在した約10日間においては遺骸周辺1cm程度で酸素濃度の低下が見られたが,それ以後の軟組織が消失した期間においては遺骸周辺での酸素濃度低下は見られなかった.さらに詳細に調べるために遺骸の一部を回収し,水槽に移設して詳細な酸素濃度分布を計測したところ,骨内ではほぼ無酸素状態出会った.つまり,骨表面を境に,海水側と骨内で急激な酸素濃度勾配が起きていることが明らかとなった. このときの生物相を観察したところ,骨表面には硫黄酸化細菌を共生したツリガネムシ類が繁茂しており,また,骨内には貧酸素環境に生息する事が知られているノリコイソメ科多毛類などが生息していた.これらの生物分布は化学分析結果と比較的調和的で,骨表面に酸化還元境界があることを裏付けている.無酸素の骨内環境に多数生息している多毛類については,今後より詳細に観察し,骨内生物の行動による骨内無酸素環境への周辺海水の供給など,骨内に生息する動物による遺骸周囲の化学分布への影響についても調べる必要があることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鯨類遺骸の海底への設置および設置後の遺骸のスキューバダイビングによる経過観察は順調に実施できている.また,海底に設置した鯨骨の一部を引き上げ,水槽に移設して鯨骨近傍における詳細な化学環境の計測を実施できている.一方で,海底における化学環境の計測については,鯨骨極近傍や鯨骨内部に浸透している海水の採取が難航しており,現在,採水せずに直接化学モニタリングできるように実験手法の再検討を行っている. また,比較材料として,第四紀更新世の浅海性堆積物中から発見された鯨骨化石においてその周囲から発見された化石群集の解析を進めたところ,世界で2例目の浅海性鯨骨群集であることがわかり,国際誌に論文を投稿した.
|
今後の研究の推進方策 |
海底設置遺骸の現場においては詳細な経過観察の継続するとともに,現在改良中の化学モニタリング手法を適用した化学環境の解析を行う. 上記遺骸の一部をについては定期的に回収し,切断などの処理を行って骨の周囲および内部の化石化の進行程度(鉱化作用の程度)について評価していく. また,鯨類をはじめとする海棲脊椎動物の化石の保存状態(特に化石周囲に見られる鉱化作用)について,堆積岩岩石学および地球化学的手法を利用して詳細に調べていく. これらの結果を比較しつつ,化石周囲で形成される炭酸塩コンクリーション(ノジュール)の形成過程およびその成因を明らかにしていく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
設置鯨骨周囲での詳細な化学モニタリングのための手法再検討が必要となり,実地での調査回数が減少したために差額が生じた.差額分は,新規の化学モニタリング法を工夫して実施する次年度調査に充てる.
|