研究課題/領域番号 |
19K21899
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中澤 知洋 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (50342621)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 雷ガンマ線 / チェレンコフ光 |
研究実績の概要 |
雷雲や雷放電から到来する20 MeVに達するガンマ線は、雷雲中に天然の静電場粒子加速器という、自然界で他には見られない現象がある証拠である。地球由来の突発ガンマ線(Terrestrial Gamma-ray Flash, TGF)は、高度 600-800 km の衛星軌道から観測される場合、100 us 程度の間に10-100個ほどの光子が検出される。Downward TGFと呼ばれる、地上で観測されるケースでは、雷雲から検出器までの距離が 1 km 程度まで近づくため、その強度は数十万倍となり、100 usの間に1マイクログレイに達することが分かっている(e.g. Wada et al. 2019)。さらに、ここからスケールすると、もし雷雲中の~百mのコンパクトな加速域からガンマ線が放射されており、これが数百mの近距離を飛ぶ航空機に照射されると、その放射線量は非常に大きくなる。この短時間にこの強度のガンマ線が照射されると、通常のガンマ線検出器では回路が飽和してしまうため、正確な測定は容易ではない一方で、大量の信号があることは、正しく計測さえできれば、粒子加速の物理を研究する上で非常に有望なターゲットであることも意味する。そこで、大強度なガンマ線が来てもなお、観測装置が飽和しない独特の工夫が重要である。本研究では、あらたにチェレンコフ光を用いたガンマ線検出技術を導入し、ガンマ線を一つ一つ捉え、その到来方向も知る軽量小型装置の開発を目指すものである。2019年度はその立ち上げとして、チェレンコフ光を発生させるPbF4結晶やアクリル、光検出のための半導体光センサー、これを固定する読み出し基板、その後段のアナログおよびADC回路を購入し、実験の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年5月に予定する兵庫県立大のシンクロトン光設備ニュースバルでの実験を計画しており、この実験へ向けて、装置を組み立て試作機を動作させる予定であった。物品の手配や基板実装など、2020年1月ごろまではほぼ予定通り進めてきたが、2020年3月に実施する予定であった、これらを組み立てた上での総合試験が実施できていない。これは、今回のCOVID19問題への対策(リモート研究および教育への対応準備)を優先させたこと、大学への入校が一時期制限されたことの影響であり、止むを得ないことと考えている。現時点でも、装置一式は組み上げと初期動作試験を待つだけの状態で、実験室に保管されている状態である。これに対応し、3月分の研究を2020年度に繰り越すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、大学の入校解除がなされ次第、この試作機を組み上げて実験室レベルで、ミューオンや、中性子線源由来の数MeVガンマ線を用いて、できる実験を進めることとする。重要なマイルストーンである、兵庫県立大のシンクロトン光設備ニュースバルでの実験については、今後の施設の運用状況次第である。また2020年冬期には、ニュースバル実験と干渉しない限りにおいて、この試作機を実際に冬季の日本海岸での雷観測に投入することも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の後半より実験を立ち上げ、物品の手配まではできている。しかし、2020年2月ごろから影響が出始めてCOVID19騒動の影響もあり、諸研究の優先順位を変える作業が発生した。具体的には2020年度前半を、在宅でできる研究を中心にするために、既存のデータの解析・解釈をできるように、2020年度に予定していたデータ収集と取りまとめ作業を優先して進めた結果、本萌芽研究の作業を止むを得ず遅らせる必要が生じたのである。延期されたのは、手配した物品を組み合わせて動作させ、基本性能を試験する部分と、その結果を受けて改良版を試作するための追加の物品の手配までである。2020年度の4月5月も、COVID19の影響は避けられないが、道具立一式は揃っていることから、大学入校が許可されたところから、ただちに研究を再開する。
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