研究課題/領域番号 |
19K21901
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
國本 健広 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特定研究員 (20543169)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 地球マントル最下部 / 高圧発生 / 6-8-2式マルチアンビル装置 |
研究実績の概要 |
近年、下部マントルの主要鉱物である珪酸塩ペロブスカイト(Pv、別名ブリッジマナイト)のポストペロブスカイト(PPv)への相転移が発見され、これがマントル最下部のD”層と深い関連性があることが示された。しかし従来の実験装置では複雑な化学組成を持つ試料を安定した温度圧力下で維持し研究する事は難しい。そこで、我々は地球のマントル最下部条件を安定かつ精密に発生可能な実験手法の実現を目指した。実験には川井式マルチアンビル装置(KMA)を採用し、その加圧部にナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)を用いて、KMAの圧力媒体中に一対のNPD製アンビルを配置することによる、高圧装置(6-8-2加圧方式)の開発を目指してマントル最下部に至る高圧発生技術の開発を進めて来た。 その結果、圧力発生に関しては地球のマントル全領域を十分に網羅可能な、最大150 GPaに至る高圧発生を達成した。目的としていた安定かつ精密な圧力温度制御に関してもP±0.02~0.05 GPa、T±3~5 K程度の誤差範囲内での実験が可能となった。また他の手法と比較し数桁大きな試料サイズを確保することも可能であり、かつ相平衡のみならず試料の電気抵抗測定も容易に可能であることから本技術を用いることで、地球内部物質の結晶構造に加えて電子状態の確認も実施可能となり、今後は地球の核―マントル境界におけるより多くの知見の集積を見込むことができる。 さらに、本研究では副次的な発見として、ダイヤモンドに関する新たな知見が得られる可能性を示した。ダイヤモンドは鉱物の中で最も高い硬度を持つがゆえにその室温下での強度を知ることは難しい。本研究では実験中に40-150 GPaという幅広い圧力範囲においてダイヤモンドの高温高圧下における塑性変形の発生を観察した。この結果は、ダイヤモンドの室温下における降伏条件を導くことにつながる重要なものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の最終目的は地球マントル最下部に相当する条件での、マントル主要鉱物であるブリッジマナイトの相転移の観察であり、その鍵は温度と圧力の発生技術の向上である。圧力発生については初年度の早い段階で達成することができ、比較的順調なスタートとなった。しかし昨年度は世界的な感染症の広まりを受けて県外への出張制限を長期間に渡り強いられることになった。その結果、本研究を遂行するために必要な放射光実験の実施が予定の4分の1程度にまで減少し、昨年度は本来の本研究目的の進捗がほとんど無い結果に終わった。また、放射光実験の実施ができないため、研究内容についても学内施設を中心に実行可能な研究目的に変更せざるを得ず、客観的に判断すると、進捗状況の区分としてはやや遅れているを選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
全国的な感染症の拡大による放射光実験の実施期間の縮小は次年度においても避けることはできないと判断し、研究内容を当初の予定よりも短期間で達成可能な内容にシフトする予定である。 本来の研究目的は主に、地球マントル最下部に至る高圧発生および高温発生、そして代表的なマントル鉱物であるブリッジマナイトの相転移の観察であったが、この鉱物をウスタイトに変更し研究を実施する。本鉱物はブリッジマナイトと同様に大型の高圧装置を用いて精密かつ安定な温度圧力条件での研究が行われたことはなく、その相関係の精密決定は地球深部のダイナミクスを理解する上でも重要であり、さらにブリッジマナイトと比較してX線散乱能が高く、比較的短期間で必要なデータを収集可能であるため放射光実験が制限された状態でも有益な情報を収集できると判断した。しかしながら試料の変更による研究上のインパクトの減少は否めず、それを補填するためにも研究実績の概要にも挙げた、ダイヤモンドの基本物性である降伏強度の決定を研究目的として追加する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
全国的な感染症の拡大に伴い予定されていた放射光実験の大部分が中止されたため物品費用や旅費の多くが未使用となった。そのため研究期間を延長し、当該年度に実行予定であった研究を次年度以降に実施する。
|