研究実績の概要 |
本研究ではこれまでに地球マントル全域に相当する圧力発生技術の開発を進め、2021年度までに地球のマントル全域を超える最大150 GPaに至る高圧発生を達成した。また、同技術開発の過程でダイヤモンドの塑性変形開始条件に関する観察結果を幅広い温度圧力条件において得ることができ、その結果はダイヤモンドの降伏強度が、圧力条件によって大きく変化することを示唆していた。この結果はこれまで明らかにされていないダイヤモンドの室温下における降伏強度を明らかにできる可能性を持つ。そこで昨年度は放射光施設SPring-8においてX線その場観察実験と川井式マルチアンビル装置(KMA)を用いたダイヤモンドの降伏強度の決定を目的とした研究を実施した。 実験試料として粒径1-2 μmのダイヤモンド粉末(Global Diamond Co., Ltd.)を採用した。高温高圧下において試料中に蓄積された歪はWeidner et al. (1994)で用いられた手法を採用して決定し、差応力は歪の変化とヤング率から決定した。回収した試料の表面形状はレーザー顕微鏡を用いて微分干渉(DIC)観察を行った。 ダイヤモンド粒子中の差応力は、加圧中は圧力の上昇とともに増加した。加熱開始後の応力は蓄積応力に応じて約500℃から1000℃程度の温度まで一定の値を保持した後、急激な低下を見せた。この応力低下はダイヤモンドの降伏に関連すると推測される。また回収実験から得られたダイヤモンドのDIC観察の結果、応力低下後の試料表面にはすべり面に対応した格子模様が確認され、塑性変形が生じていたことが確認された。ダイヤモンドの降伏強度は、これまで1000℃-1500℃という高温下でのみ測定されていた。本研究ではこれを500℃にまで低下させることに成功し、室温下におけるダイヤモンドの強度に強い制約を与えることに成功した。
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