研究課題/領域番号 |
19K21902
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
羽田 亨 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (30218490)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 異常拡散 / 宇宙線加速 |
研究実績の概要 |
高エネルギー粒子(宇宙線)の運動は、波動に捕捉されて停滞したり、波動の影響を受けずに長距離をほぼ直線的に移動したりするような「レビ過程」として記述できる。このような粒子の集団の拡散は通常の古典拡散方程式ではなく、時間または空間微分項に「フラクショナル微分(非整数階微分、以下FD)」を含むフラクショナル拡散方程式(FDE)となる。輸送の非古典的取り扱いは、プラズマ物理の問題としてのみならず、数理科学の観点からも重要である。 近年、FDの数値評価法に進展があり、系の発展を数値的に精度良く解くことが可能になってきた。また、粒子集団の時間発展を追う輸送拡散方程式に対し、経済工学に多くの応用がある伊藤積分と伊藤の公式を用いた解法が工夫されるようになってきた。このような状況をふまえて、非ブラウン粒子統計の定量化、FDEの数値解析、衝撃波を含むFDE系を用いた宇宙線加速の定量的解析、さらに複数衝撃波による宇宙線加速、中間衝撃波の存在条件、MHDリーマン問題との関連等について解析を行なった。 2020年度の進展は以下の通りである。昨年度に引き続き、レビ分布に基づく歩行ー停滞モデルの定量解析を行ない、歩行の部分の漸近指数と停滞部分の漸近指数とを独立に与えることにより、種々の軌道群について数値的に統計を求めた。通常の超拡散(超拡散I)とこれよりもさらに弾道的な超拡散(超拡散II)との分離について理解を深めた。FDには多くの定義がありそれぞれに異なる応用の対象が存在することが知られているが、レビ過程に従う粒子アンサンブルの拡散過程の記述にふさわしい物理的定義について理解を深め、その数値解法を提案した。複数衝撃波による宇宙線加速のモデルを提案し、シミュレーションおよび移流拡散方程式解を求めた。中間衝撃波の解析解を求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、非ブラウン運動を行う多くの粒子のアンサンブルの時間発展を、理論的および数値的に解析している。2020年度は関連文献の精査を行うとともに、以下の項目について研究を進め、いくつかの興味深く新しい結果を得た。 (1) レビ過程に基づく歩行ー停滞モデルの解析により、種々の軌道群について数値的に統計を求め、さらに漸近解を解析的に求めた。昨年度、通常の超拡散(超拡散I)に加えて、これよりもさらに弾道的な超拡散(超拡散II)が分離存在することを提唱したが、このことについてさらに解析的に理解を深めた。輸送拡散方程式に対して、経済工学に多くの応用の多い伊藤積分と伊藤の公式を用いた解法が工夫されていることを踏まえ、文献リサーチを行うとともに、衝撃波加速にこれを用いる方法についての研究を始めた。 (2) フラクショナル微積分には多くの定義があり、それぞれに異なる応用の対象が存在している。これまで Riemann-Liouville微分、Caputo微分、Riesz微分に注目し数値解の比較を行ってきた。極限的な初期・境界条件設定のもとでの解の相違について調べた。 (3) 衝撃波を含む系でのフラクショナル移流拡散方程式は、宇宙線の加速・拡散を議論する上で極めて重要であるが、衝撃波の存在のため背景場が非一様となりフーリエ変換に畳み込みが必要となるという難点がある。準拡散領域での非物理的解についての理解を深めた。 (4) 複数衝撃波による宇宙線加速について、軌道の数値積分および輸送拡散方程式を用いた解析を行った。2つの衝撃波が交差する場合、これまで知られていたよりも高効率の加速が行われることを見出した。 (5) これまで考慮していた「速い衝撃波」だけではなく、シア・アルヴェン波が元である中間衝撃波について理論的考察を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基本テーマである、レビ過程の概念を用いた粒子運動の統計の定量化、フラクショナル拡散方程式の数値解析、衝撃波を含むフラクショナル拡散方程式系を用いた宇宙線加速の定量的解析の3項目については、今後も引き続き解析を継続する。また、これまでの知見を生かし、レビ過程に基づく新しい宇宙プラズマ物理のパラダイムの構築に向けた考察を行う。また昨年度までの研究継続に加え、以下についても考察を行っていく予定である。(a) 最近その有用性が高く評価されるようになってきた伊藤積分と伊藤の公式の応用による宇宙線の輸送拡散方程式の解析。特にレビ過程に対応する伊藤積分の拡張は現在発展中の領域であり、宇宙線加速に限らず大きなインパクトのある研究結果となる可能性がある。(b) 複数衝撃波による宇宙線加速。複数衝撃波が存在する場合、衝撃波間を移流により移動する時間スケールとランダム歩行により移動する時間スケールが独立に存在するため、これらの比が宇宙線加速に重要なパラメータとなる。特に交差する衝撃波による高効率加速について理解を深める。本年度が最終年度であるため、研究結果を総括し、学会等で発表するとともに査読付き専門誌に投稿・論文発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス拡大感染防止のため、海外出張および招聘予定研究者の来日がキャンセルとなったため。
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