生命誕生以前の原始タンパク質は、原始環境中に存在したアミノ酸から合成されたはずである。本研究では、原始タンパク質にあり得た機能として、RNA結合、ATP結合、鉄-硫黄クラスター形成を仮定し、これらの機能が原始環境に存在したと推定される少数アミノ酸種から発現可能か検討することを目的とした。 真正細菌共通祖先型リボソーム蛋白質uS8を祖先配列再構成法により復元し、祖先型uS8から網羅的かつ系統的にアミノ酸種類を減らす実験をおこなった。その結果、13種類のアミノ酸種類だけから再構成したuS8がRNA結合活性を持つことを明らかにした。 細胞の「エネルギーの通貨」とも呼ばれるATPは、地球上のすべての生物が細胞内のエネルギーの保存や利用に用いる生体関連分子であり、RNAの前駆体の一つでもある。過去の研究で復元した祖先型ヌクレオシド二リン酸キナーゼArc1から網羅的かつ系統的にアミノ酸種類を減らす実験により、12種類のアミノ酸で再構成されたアミノ酸組成単純化Arc1改変体がATP結合活性を示すことを明らかにした。さらに、いくつかの研究から原始地球に比較的豊富に存在したと提唱され、しばしば「プレバイオティックアミノ酸」とも参照される10種類のアミノ酸に塩基性アミノ酸であるリジンとアルギニンを加えて12種類のアミノ酸から再構成されたArc1改変体、そこからさらにリジンを欠損させた11種類のアミノ酸から再構成された改変体が、ADPのβリン酸基を別のADP分子に転移することでATPとAMPを生成する反応を触媒することを明らかにした。 内部に鉄-硫黄クラスターを持つフェレドキシンの分子系統解析と祖先アミノ酸配列推定により、主にプレバイオティックアミノ酸からなる29残基のペプチドの重複による原始フェレドキシンの誕生モデルを提案した。
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