研究課題
エアロゾル粒子の中に、気候変動に影響を与える氷晶雲の生成に重要な高い氷晶核能を持つ粒子が存在する。それらの限られた粒子が氷晶雲の形成に非常に重要となり、また気候にも大きな影響を与える。それらが氷晶を形成する過程が、どのような物理・化学的性質によって引き起こされているかは、まだ十分に理解されていない点が多い。そのため、本研究ではそれらの未解明な点を個別粒子分析で明らかにすることを目的とする。実験では、冷凍チャンバーを用いた個別粒子分析実験を行い、高い氷晶核能を持った粒子がどのような物理化学的特徴をもち、どのようなメカニズムで高い氷晶核能を持つのかを明らかにする実験を行った。特に、2020年度はアマゾン地域で得られた氷晶核能実験を集中的に行い、バイオエアロゾルとダスト粒子の氷晶核能の比較検討を行った。その結果、バイオエアロゾルが高い氷晶核能を示したものの、サハラ砂漠からのダストプルームが到達した際にはダストも大きく氷晶核寄与をすることが分かった。また、両者の氷晶生成プロセスが異なることを顕微鏡分析で明らかにした(論文準備中)。加えて、北極の航空機観測で高い氷晶核能が得られた試料の電子顕微鏡分析結果を論文として公表した(Hartmann, Adachi et al., 2020)。また、新たに高い氷晶核能を持つ粒子として注目されている森林火災由来の灰粒子に着目し、その氷晶核能実験を行い、その結果、灰粒子が森林火災プルームの中では重要な氷晶核粒子となることが分かった(Adachi et al. 投稿中)。また、太平洋航海試料において、氷晶核能が高かった試料の電子顕微鏡実験を行ったほか、氷晶核として機能する可能性がある固体粒子の新たな検出方法に関して検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
計画は順調に進んでいる。特に、アマゾンで採取された試料を用いて、統計に必要な数の試料を分析し、その氷晶核とエアロゾル種の関係について検討を行った。また、森林火災由来の灰粒子について、その氷晶核能の検討を行い、興味深い成果を得ており、現在論文投稿中である。加えて、過去の観測で得られた試料などを用いて、他の研究者とも議論しながら氷晶核とエアロゾル種の関係について多くの知見を得た。それらデータに関して論文を投稿中もしくは準備中である。研究計画が遅れている面としては、世界的なパンデミック状況において、国内外での出張を伴う学会発表、新たな野外観測等が進んでいないことがあげられる。そのため、既存の試料分析に集中した研究を進めており、本研究課題に関連した新たな野外調査は、今後出張が可能になった研究期間の後半で行いたい。
今後の研究計画は、過去に採取した試料の室内実験を進める予定である。特に、氷晶核データがそろう北極の試料解析を中心に実験を行う計画である。出張が可能になれば、北極(ノルウェー、スバールバル諸島)での氷晶核試料の追加採取を行う予定である。
世界的パンデミックの影響で観測出張を含む国内・海外出張がすべてキャンセルされた。そのため、出張旅費及び観測に伴って使用する予定であった消耗品等の予算を使用しなかった。代わりに、2021年度に行う予定であった室内実験を前倒しで行い、代わりに2021年度に2020年度行う予定であった観測出張(北極など)や国際学会発表を行う予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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