研究課題/領域番号 |
19K21907
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
廣瀬 丈洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), グループリーダー (40470124)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 断層 / 水 / 流速 / 強度回復 / 固体接触 |
研究実績の概要 |
地殻内部の断層に沿って、水は普遍的に流れている。この水と岩石の物理・化学相互作用によって、断層の強度と水理特性は時間とともに劇的に変化する。しかし、この水の流れそのもの(流速)が、これら断層物理特性にどのような影響を及ぼすかはよくわかっていない。本研究では、「水の流れが断層の強度回復(断層シール効果)を抑制する」という仮説を、新たに開発する流速環境下での摩擦実験によって検証する。特に、「流速によって断層の強度回復速度がどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、流速と断層の強度回復速度(および透水係数)の相関関係を確立するとともに、その相関式を支配する固体接触域での物理化学プロセスを解明することを、本研究では目指している。 令和元年度は、粉砕砂岩を用いた「すべり-固着-すべり」を繰り返す実験(フローSHS試験)を、流れがある場合とない場合でおこなった。その結果、流れがない場合は 「時間の対数に比例して強度が回復する」が、流れがある場合、「強度がほとんど回復しない」ことを確認した。この成果は、地殻浅部の断層では、流れがあるとマクロスコピックには強度回復しないことを暗示しており、このプロセスによって浅部スロー地震の発生機構を説明できる可能性が出てきた。この実験の概要、結果と考察を、地質学会で発表し議論を深めた。また、長期間に渡って連続で流体圧もしくは流速を制御できるシステムを、回転式摩擦試験機に組み込むことができ、次年度からこの新しい試験機システムを使ってSHS実験をおこなえる体制を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、粉砕砂岩を用いて流速を制御したフローSHS試験をおこない、流れがない場合は 「時間の対数に比例して強度が回復する」が、流れがある場合、「強度がほとんど回復しない」ことを確認した。一方、すべりに伴って粉砕砂岩の粒径が破壊によって減少するため、実験中に砂岩模擬断層の透水係数が低下する傾向があり、流体圧もしくは流速を一定にした実験が困難であることも判明した。その結果、SHS試験のすべり毎の断層強度を直接比較できないという問題がでてきた。この問題を克服し、さらに流体圧もしくは流速をうまく制御するために、以下の2つのことに取り組み、予察的な実験をはじめることができた。 (1)連続で流体を試料に送り込めるようシリンジポンプを改良して様々な流速を出せる機構の実験システムへの組み込み。 (2)破壊強度が大きい粒径0.03~1mmの球状のジルコニア試料の準備 次年度は、この試験機システムを活用して実験を行う予定であり、研究は計画通りに順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度後半に回転式摩擦試験機に組み込んだ長期連続流体制御システムを用いて、流体圧もしくは流速を制御したSHS実験が可能かどうかを検証する。特に、ジルコニア試料の粒径によって流体圧・流速を制御できるかどうかが決まってくるはずなので、SHS実験に最適な粒径をまず見つけ出したい。また実験後、固体接触域の微細構造を観察できるよう、試験機から変形試料を回収する方法を確立する。試料がうまく回収できれば、固体接触域を偏光顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察することに加え、マイクロX線CT装置を用いて接触域を3Dデジタル化することを試みたい。 一連のフローSHS実験およびその回収試料の組織観察と化学分析の結果を得ることができれば、その結果を基に、流速と強度回復速度との相関を説明しうる固体接触域の新しい物理化学モデルの構築を目指す。さらに、このモデルが、天然の長い時間スケールの物理化学プロセスに適応可能かの検討もはじめたい。
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