研究課題
地殻内部の断層に沿って、水は普遍的に流れている。この水と岩石の物理・化学相互作用によって、断層の強度と水理特性は時間とともに劇的に変化する。しかし、この水の流れそのもの(流速)が、これら断層物理特性にどのような影響を及ぼすかはよくわかっていない。本研究では、「水の流れが断層の強度回復(断層シール効果)を抑制する」という仮説を、新たに開発する流速環境下での摩擦実験によって検証する。特に、「流速によって断層の強度回復速度がどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、流速と断層の強度回復速度(および透水係数)の相関関係を確立するとともに、その相関式を支配する固体接触域での物理化学プロセスを解明することを、本研究では目指している。令和3年度は、これまでに構築してきた流速を長期連続制御できるシステムを用いて、「すべり-固着-すべり」を繰り返す実験(フローSHS試験)をおこなった。実験は、0.125~0.250 ㎜に粉砕したインド産の砂岩を用いて、0~0.6 cc/minの流速条件下でおこなった。その結果、流速が大きくなると断層の強度回復が妨げられる傾向があることがわかった。さらに、すべりはじめにダイレーションが起こること、すべり停止とともに圧密が進むこと、そしてダイレーション・圧密に伴って水圧が減少・増加する傾向を捉えることができた。水圧が変化する様子を捉えることができたため、強度回復の挙動を有効摩擦係数(剪断応力を(垂直応力―水圧)で規格化した係数)を使って表現すると、強度回復の挙動は流速に依存しないことが明らかとなってきた。令和4年度(最終年度)は、令和2年度までに実験に用いてきた反応性に乏しいジルコニア試料の結果と合わせて、実験・解析の成果を論文として公表する予定である。
3: やや遅れている
令和3年度は、これまでに構築してきた流速を長期連続制御できるシステムを用いて、フローSHS試験をおこなった。実験には、これまで用いてきた強度の大きい球状の合成ジルコニア(0.03~1 mm)に加え、0.125~0.250 ㎜に粉砕したインド産の天然砂岩を用いて、0~0.6 cc/minの流速条件下でおこなった。その結果、ジルコニア試料と同様に砂岩試料においても、流速の上昇に伴って断層の強度回復が妨げられる傾向があることがわかった。さらに、(1)すべりはじめにダイレーションが起こること、(2)すべり停止とともに圧密が進むこと、そして(3)ダイレーション・圧密に伴って水圧が減少・増加する傾向を砂岩試料でも確認することができた。SHS実験に最適な水圧計を導入することで水圧が変化する様子を捉えることができたため、強度回復の挙動を有効摩擦係数(剪断応力を(垂直応力―水圧)で規格化した係数)を使って解析した。解析の結果、強度回復の挙動は流速に依存しないことが明らかとなってきた。
地震後の断層強度回復過程は、断層内部で進行する水―岩石反応によって固体微小接触面積が増加することに起因する。令和4年(最終年度)は、反応性に乏しいジルコニア試料と水―岩石反応が進行しやすい砂岩試料の結果を比較しながら再解析を行う。また、断層帯内部の固体接触域で起こっている物理現象を探るため、実験回収試料の走査型電子顕微鏡観察をおこなう。試料をうまく回収する方法を確立できれば、マイクロX線CT装置を用いて接触域の3D構造を観察することも試みる。そして、これまでの一連のフローSHS実験結果およびその回収試料の微細組織の観察結果から、流速と強度回復速度との相関を説明しうる断層固体接触域の物理化学モデルの構築を目指す。さらに、このモデルが自然界の長い時間スケールの物理化学プロセスに適応可能かを検討した上で、研究成果を論文として公表する。
流速を制御するシリンジポンプに不具合が生じた上に、コロナ感染拡大の影響で実験に必要な資材の入手が困難となったため、計画通りに実験をおこなうことができなかった。そのため物品購入の経費を一部繰り越すことになった。すでに資材の入手のための手配は整えているので、今後の研究計画に影響はない。また、学会および打ち合わせ等の出張がすべてオンライン化されたため、旅費に関わる経費を繰り越すことになった。
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