研究課題
生物の主要必須常量元素のうち、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素などの必須ミネラルと呼ばれる元素は細胞の浸透圧、膜電位の調節・維持・決定をはじめ多様な生化学プロセスを駆動する。近年、金属の安定同位体比がその摂取と代謝の履歴を反映することが報告され、生態情報の新規ツールとして期待されている。本研究は生態系における金属動態の解明と、化石・考古生態へ応用可能な新しい食物網解析ツールの確立に向けて、海棲魚類の器官ならびに食物連鎖に伴うマグネシウム安定同位体比の変化を検討した。タラをはじめとした底魚、イソギンチャク、カニ、ナマコ、ヒトデなど多様な生物種のマグネシウム同位体比を測定した。試料のマグネシウム同位体比は-0.68から-2.67パーミルの非常に広い範囲をとり、生物種毎に特有の同位体比をもつ。最も多い試料数を測定した底魚では、全長と筋肉のマグネシウム同位体比に高い正相関が認められた。重量との対比ではトレンドは認められなかった。同試料のアミノ酸の窒素同位体比では同様のトレンドは認められないため、少なくとも窒素源からみた採餌行動は変化しなかったため、代謝の変化である可能性が原因として挙げられる。最も低い同位体比を示したヒトデは体内に微少な骨片(炭酸塩鉱物)を有しており、これらの無機鉱物は周辺の組織液よりも1から2パーミル程度は低い同位体組成をもつと考えられるため、生体無機鉱物の影響を受けた可能性が高い。
2: おおむね順調に進展している
昨年度確率した脱脂処理を取り入れる手法を応用し、多様な生体試料で測定を実施できた。成果として2篇の論文を誌上発表した。生体試料は海洋の多様な生物種を対象に測定を進め、天然試料を用いた採餌に伴う変化を有機物の栄養段階の指標と新規の無機元素の同位体指標の変化を対比することができた。実験時間が限られている中で自動分析装置のアップデートに取り組むことで研究を効率化することができた。
マグネシウムに関しては順調に成果が得られたが、他の元素はカリウムで共著論文を発表できたものの、感染症によって出張が出来ないなど想定した以上に影響が大きい。今後は国内で測定を実施でき良い成果が得られているマグネシウムに絞って研究を実施する予定である。
感染症対策による出勤制限や分析が一部遅れたことにより分析用消耗品を購入しなかった。分析消耗品と投稿・校閲費に充てる予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Frontiers in Earth Science,
巻: 9 ページ: 1-17
10.3389/feart.2021.592062