研究課題/領域番号 |
19K21917
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
松本 龍介 京都先端科学大学, 工学部, 准教授 (80363414)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 格子欠陥 / 活性化エネルギー / 材料力学 / 統計力学 / 原子シミュレーション |
研究実績の概要 |
電子・原子レベルのシミュレーションは,材料強度学の分野で不可欠な研究手段になっており,その重要性は今後も増していくと考えられる. しかしながら,現在用いられている計算手法は取り扱える時間スケールが極端に短いものや,解析者の洞察力やモデリングに強く頼った初期条件依存性の強いものばかりである.エネルギー極小点から初期探索方向を設定し,その近傍のポテンシャル曲面の谷に沿って鞍点まで系を押し上げていくことで現象を起こし,活性化エネルギーを評価するGRRM法が化学分野で開発されている.本年度は,前年度に周期境界条件を導入し,さらに格子欠陥まわりの原子運動に強く寄与する基底に重みを与えて初期探索方向を決定するように改良を行ったプログラムを基礎として以下の研究を行った. 最初に原子間ポテンシャルをより実材料に近い鉄のEAMポテンシャルへと置き換えた.また,個々の探索方向に対する計算をMPIを用いて並列処理するようにプログラムに変更を加えた.これにより,大規模並列計算機を用いた計算が可能となった.その後,bcc鉄中の単空孔や複空孔の拡散経路解析を行った.単空孔の拡散経路解析では第一近接原子が拡散する8経路が自動的に求められ,またその時の活性化エネルギーがNEB法で求められたものとほぼ同じ値を示すことを確認した.2個の単空孔が結合した複空孔の拡散経路解析では,異なる空孔配置間の構造変化,また複空孔から単空孔2個へと分離する際の活性化エネルギーを求め,初期状態に関わらず経路を探索できること,複空孔が拡散する際の活性化エネルギーについて一般的に用いられる近似より小さなエネルギーで拡散できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に開発したプログラムをベースに,より実際の材料に近い系を取り扱えるように原子間ポテンシャルをレナード・ジョーンズポテンシャルからEAMポテンシャルに置き換えた.また,並列化計算パッケージ(MPI)を用いることで個々の初期探索方向に対する計算を並列処理するようにプログラムに変更を加えた.これにより,大規模並列計算機を用いた計算が可能となり,より複雑な系の解析が可能となった. また,開発したプログラムを用いてα鉄中の単空孔と複空孔の解析を行い,拡散経路が自動的に網羅されること,求まった値が別の方法(NEB法)によるものと一致することを確認した. 以上のことは,おおむね計画通りであり,本研究は順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で既知の拡散経路を網羅的に求められることがわかった.そこで,より複雑な問題,具体的にはより大きな複空孔や空孔-水素複合体の拡散問題への本手法の適用を行う. また,網羅的に求まった経路から,活性化エネルギーに応じて経路を選択し,新しい構造に対してGRRM法を再度適用する.このプロセスを繰り返すことで,熱活性化過程の発生頻度に従って次々とエネルギー障壁を超えていく格子欠陥の運動問題の解析を可能とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で外国人研究者,大学院生の入国ができず,人件費の支出を行えなかったため.R3年度には時間を増やして雇用を行う予定である.
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