研究課題/領域番号 |
19K21919
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高谷 裕浩 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70243178)
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研究分担者 |
水谷 康弘 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40374152)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 液中超短パルスレーザ加工 / フォトニック・ナノジェット / 電子増強ラマン散乱効果 / 光周波数コム・ラマン散乱解析 / ナノ局所界面計測 / 超微細レーザ加工 / 時間・空間選択性 / 加工現象解析 |
研究実績の概要 |
本研究は,フォトニック・ナノジェット(以降,PNJ: Photonic Nanojet)による液中の超短パルスレーザ加工過程において,ナノ局所界面で起こる加工現象による温度や物性変化を時間・空間選択的に捉えることができる,新たな加工計測原理の確立をめざすものである.本年度は,電子増強ラマン散乱効果(以降,EERS:Electron Enhanced Raman Scattering)を利用した,ナノ局所界面における空間選択的計測の基本特性を解析的および実験的に明らかにするため,液中におけるPNJ生成特性および加工現象の基礎的検討を行い,次の研究成果[1]~[3]を得た. [1] 液中におけるPNJの生成特性を明らかにするため,有限差分時間領域法(以降,FDTD: Finite-difference time-domain)に基づいた,独自のPNJ強度分布解析シミュレータを開発した.中心波長800nmのフェムト秒レーザ光を直径8μmのマイクロガラス球(屈折率1.45)に入射したときのPNJ強度分布を解析した結果,純水(屈折率1.33)中では,空気(屈折率1.00)と比較して,ピーク強度のビーム径は約1.75倍と大きくなるが,マイクロ球からの距離(ワーキングディスタンス)は約9倍長くなることを示した. [2] ナノ局所界面計測システムを導入する基本光学系として,PNJ の位置制御系を含むレーザ加工系,共焦点光学系による位置検出系,加工点を観察するための顕微鏡観察系の3つの要素から構成される,超短パルスレーザ加工光学系を構築した. [3] 大気中および液中における加工特性解析,加工制御実験を遂行し,マイクロガラス球と被加工物表面のクリアランスを変化させた加工において,穴径約700nmの安定した加工現象が観察され,加工点のナノ局所界面におけるEERSスペクトル計測の可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノ局所界面で起こる複雑な加工現象を捉えることができる,EERSスペクトルの空間選択的計測手法を確立するためには,加工精度に応じた測定精度や空間分解能の仕様を選択する必要がある.そこで本年度は,液中におけるPNJ特性のFDTDシミュレーション解析によって,マイクロ球の粒径,周囲媒質とマイクロ球の屈折率比,入射レーザ光の波長およびデフォーカス位置を制御パラメータとしたときのPNJ強度分布特性を明らかにし,ビーム径およびワーキングディスタンスの最適値に基づいたEERSスペクトルの空間選択的計測精度および空間分解能を推定することを可能とした.さらに,独自に開発したナノ局所界面計測基本光学系を導入する超短パルスレーザ加工光学系を利用して,純水中におけるSiウェハ加工実験を遂行した.3次元FDTD解析に基づいた加工シミュレーションとの比較により,加工量の定量的な解析に基づいて,EERSスペクトルのナノ局所界面における空間選択的計測の基本特性を高精度に検証可能な手法を確立した. 一方,加工界面における水分子層によるEERSスペクトルを計測するためには,誘導ラマン散乱が放射される後方散乱光を分光装置に導く必要がある.このとき,加工用レーザ光の散乱光と誘導ラマン散乱光とのS/Nを確保するための光学系の工夫が必要である上,マイクロガラス球による散乱状態がマイクロガラス球の位置によって,予想以上に大きく変わることが明らかとなった.従って,上述の課題が解決されなければ,加工中における計測が困難であるため,今年度実験を進める計画であった,ナノ局所界面におけるEERSスペクトル計測の検証実験,および光電子増倍管を用いてプラズマ発光を検出し,水酸化フラーレンの濃度変化によるEERS効果の安定条件を求める実験が未達成となったことを鑑み,進捗状況として「おおむね順調に進展している」の評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は,基本的に今年度の研究成果を発展させる方向で進める.まず,加工界面における水分子層によるEERSスペクトル計測を可能にするための大きな課題として,誘導ラマン散乱が放射される後方散乱光の高S/Nで高効率な分光計測手法の確立が挙げられる.そのためには,励起用ナノ粒子として水酸化フラーレン分子を用いたEERSスペクトル計測の基礎実験によって,誘導ラマン散乱の放射特性を明らかにする必要がある.さらに,マイクロガラス球によって吸収・散乱されることによって,分光器に導入できる誘導ラマン散乱光量が減衰するのを最小限に抑える必要がある.そこで新たな方略として,マイクロガラス球を集光レンズとして利用し,後方散乱光を効率よく導入する光学系設計を行う. 一方,ナノ局所界面計測系の基盤である超短パルスレーザ加工光学系では,マイクロガラス球と加工材料表面のクリアランス(2~5μm)制御により,光軸方向のPNJ強度変化を高精度に利用した加工量制御を行う.そのため,加工界面に対するマイクロガラス球位置の変化によって,分光器に集光する誘導ラマン散乱光量が変化してしまう.そこで,マイクロガラス球と加工材料であるSiウェハ表面のクリアランスが変化しても,誘導ラマン散乱光の集光位置を一定に制御できる,可変焦点光学系を用いたラマン散乱計測光学系の構成を検討する.さらに,液相(バルク水)における3400カイザー近傍のラマンスペクトルの検出によって,加工界面の水分子層によるEERS効果による加工現象解析が可能であることを実証し,光電子増倍管を用いたプラズマ発光検出に基づいて,水酸化フラーレンの濃度とEERS効果の安定条件の関係を実験的に求める.以上の実験によって得られる知見と今年度の加工実験によって明らかとなった加工精度に基づいて,EERSスペクトルの空間選択的計測の測定精度や空間分解能を検証する.
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