研究課題/領域番号 |
19K21920
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平原 佳織 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40422795)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ナノカーボン / エアログラファイト / 構造制御 / マイクロ粒子 / 力学特性 |
研究実績の概要 |
1. 試料合成:エアログラファイト球殻粒子の合成環境を整備した。整備した装置では、1回の合成で樹脂複合材料試験片をいくつか作製できる規模であり、本研究で行う予定の力学試験用の試料を安定かつ定期的に供給できるようになった。 2. 複合樹脂の作製:合成した粒子試料をPDMS樹脂へ複合化する方法について検討した。本年度は、樹脂表面に均一に包埋するための条件探索を行い、実際に表面に粒子の一部が露出した状態の複合表面を得た。しかしながら単粒子レベルでの分散には、合成段階からの形状制御についてさらなる検討が必要であるとの見通しを得た。実際に得た複合材料の濡れ性を評価した結果、エアログラファイト球殻粒子の有する特異な棘状構造による撥水性の発現が確認された。 3. 力学特性の評価:粒子の力学特性の向上に向けて、まず粒子の結晶性が及ぼす影響を調べるために、真空中でのアニールによる結晶性制御を検討した。本年度では1600℃、2000℃での熱処理を行い、これらの試料の結晶性の変化を電子顕微鏡観察および電子回折により評価した。これまでナノチューブやナノコイルに対して結晶性制御を行ったときには、それらをなすグラファイト層中の欠陥が十分除去された状態となったのに対して、本研究で扱うエアログラファイト粒子では局所的にきれいな黒鉛構造が形成されたものの、欠陥の存在に由来する構造がまだ多くの部分では残っていることを確認し、今後の構造制御の条件修正の指針を得た。並行して、本研究室で所有するマニピュレータにより粒子1個を電子顕微鏡内で圧縮させる実験のトレーニングを行い、加熱処理した粒子の力学特性計測を行える準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画から、方法や順番を変更したが、実際に行った実験については一定の進捗が認められ、おおむね順調と判断した。 力学試験については、過去に同様な実験を行った経験はあったものの、十分な精度でマイクロ粒子1個の力学計測が行える系に整えるまでに細かいノウハウを確立する必要があった。一緒に実験を進める学生のトレーニングも並行して進め、結果として今年度末には着実に粒子1個のハンドリングおよび計測が行えるようになった。 結晶性制御については、当初の計画では真空加熱炉を導入する予定だったが、本年度は、まず計画段階で想定していた加熱条件の妥当性を検証するために、外部委託による試料作製に切り替えた。結果として、過去の類似した材料で得ていた知見よりも十分な制御ができているとはいえないことが分かったが、構造解析結果からさらなる構造制御条件を見いだせる見通しは得られたため、来年度は加熱処理装置を導入して結晶性制御を引き続き行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
エアログラファイト球殻粒子1個レベルの力学特性としては、引き続き結晶性向上による制御を検討する。さらに、粒子の変形のひずみ速度もしくは時間依存性も調べ、粘弾性体としての評価を行う。 複合樹脂試験片の圧縮試験・引張試験により弾性係数や降伏点を調べる。特に、繰り返し特性について、粒子含有率や歪みの大きさとの相関を評価する。また、摺動試験の要領で摩耗度、摩擦係数の評価を行う。 一連の力学試験で得られるデータを本質的に理解するために、電子顕微鏡を用いた試料評価および顕微鏡内での微視的な力学挙動の観察を行う。顕微鏡観察では、複合樹脂柱の分散度、個々の粒子の表面における樹脂との接着性など、複合樹脂の特性に直結する構造特性を評価するとともに、各種力学試験後の粒子-母材界面などの構造変化を調べる。電子顕微鏡観察用の微小試験片も作製し、マニピュレータを用いて、試験片に応力を負荷しながらリアルタイムで含有粒子の変形挙動や母材との界面構造を直接観察する。 本研究で得られる一連の結果から、 エアログラファイト球殻粒子の異種物質に対する濡れ性や、粒子一個レベルの摩擦・摩耗特性に表面の幾何学的な立体構造が与える影響、個々の粒子の有する力学特性が複合樹脂の弾性に与える影響などを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
結晶性制御については、初年度に真空加熱炉を導入する経費を計上していたが、装置の加熱温度の仕様を決定するために、まず外部委託によって導入を予定している装置と同様な条件で熱処理を行ってその結果を見ることが妥当なプロセスと、研究を進める段階で判断するに至った。結果として、計画時に想定した加熱条件は改良の必要はあるが、装置自体の仕様を変更する必要はないことが分かった。また、同熱処理を引き続き外部委託することも可能ではあるが、1バッチの処理に1か月程度マシンタイムを待つ必要があった。装置を所有することによってより多くの試料を研究進捗に沿ったタイミングで円滑に処理したいため、2020年度に装置を購入することとし、必要な費用を繰り越した。
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