研究課題/領域番号 |
19K21925
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
細井 厚志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60424800)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | き裂治癒 / 疲労 / 電流印加 / 金属 |
研究実績の概要 |
今年度は疲労試験によって金属材料表面に形成される突き出しに対して,電流印加が及ぼす影響の調査を目的として研究を行った.実験では多結晶の純銅試験片に対して引張圧縮の疲労試験を施すことで,試験片内部に固執すべり帯(Persistent Slip Band: PSB)を生じさせ,1×10^3~5×10^3cycleの間,1×10^3cycle毎に試験片を取り外し,電流印加を実施した.試験片は電流印加の有無により2種類用意し,任意のサイクル数疲労試験を行った試験片の表面をレプリカ法により採取した.取得したレプリカに対して原子間力顕微鏡を使用して試験片表面に形成された突き出しの観察を行った.その結果,電流印加の効果として以下のものが確認された.1.電流印加によってサイクル数に対する突き出しの成長速度が遅延した.2.電流印加によって突き出しの高さが減少した. さらに,上記の実験結果に対してPSBの原子空孔モデルに基づいた簡易的な電流印加モデルを構築した.具体的には,電流印加がPSBに及ぼす影響について以下に示すプロセスを仮定し評価した.1.PSB中のchannel内に存在する飽和した原子空孔に対して電流印加を施すことで原子空孔のveinへの拡散が促進される.2.channel内の原子空孔密度が低下する.3.channel内の原子空孔が再び飽和するまでの間,原子空孔のveinへの拡散が抑制される.4.原子空孔が再び飽和するまでの間,突き出しの成長が抑制される.提案したモデルと実験結果を比較した結果,突き出しの成長の緩和に関して,提案した解析モデルにて表現することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
想定していた実験や解析の結果が得られているため。
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今後の研究の推進方策 |
疲労負荷によって生じる突き出し,入り込みの成長に対して電流印加が与える影響を評価する.PSBが生じた結晶粒のシュミット因子を取得し,実験結果の妥当性を得る.更に入り込みに対する影響の調査も併せて行っていく.疲労試験によりPSBの形成が確認される部分に対して集束イオンビームを使用して試験片厚さ方向に断面出しを行うことで入り込みの観察を可能にする.任意のサイクル数で疲労試験を中断し,電界放出型走査顕微鏡を使用して入り込み先端の観察を実施する.この手法によって入り込みを起点として発生する疲労き裂に対する電流印加の影響の調査を行う.またPSBが存在する部分を薄膜化し透過型電子顕微鏡で観察を行うことで,電流印加がPSBの転位構造に与える影響の調査も併せて実施する.上記の実験を通して電流印加が転位という微視的なレベルからから疲労き裂という巨視的なレベルに与える影響を総合的に評価する. これに加えて,疲労き裂を生じた金属材料に対して高密度電流場を制御することでき裂治癒を実現する.具体的には,1~10mm程度の疲労予き裂を導入し,高密度パルス電流を印加する.き裂先端に生じた高密度電流場によって熱圧縮応力を作用させき裂を閉じさせることを試みる.き裂治癒効果の評価においては,き裂先端の変位場をデジタル画像相関法を用いて計測し,電流印加前後の応力拡大係数範囲を見積もる.さらに,き裂進展速度と応力拡大係数範囲の関係(パリス線図)によって評価する.疲労き裂治癒前後のき裂接合界面とその近傍の組織性状や原子濃度分布等の変化を実験的に観察・評価し,電流印加における疲労き裂閉口機構,及びき裂界面の原子拡散による原子再結合機構を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
き裂治癒に対して、圧縮力を付与しながら電流印加する方法が有効である可能性があり、当初予定していたパルスレーザ装置の購入を見送ったため。この差額はプレスジグ作製に使用予定である。
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