研究課題/領域番号 |
19K21926
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
城田 農 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (40423537)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 前後非対称濡れ性 / 核沸騰 / 液滴自己推進 / ライデンフロスト / 鋸歯形状 |
研究実績の概要 |
加熱された鋸歯状表面に置かれた液滴が,鋸歯形状によって決められる方向へ推進することは,Linke et al. (Phys. Rev. Lett, 2006)によって初めて報告された。彼らは,加熱面が十分に高温である場合には蒸気によって,沸点付近では加熱面上に形成される核沸騰によって液滴が推進することを考察した。彼らが用いた鋸歯形状は,急斜面角度が80度,緩斜面角度が10度のものであり,後発の研究においても広く使われてきた。 私たちの研究ではまず,Linke et al. (2006) が用いた鋸歯形状表面に特殊な濡れ性分布を持たせた。すなわち,表面全体を基本的に撥水性とし,緩斜面の頂上付近のみに親水性を持たせた。その結果,鋸歯面を水平に置いた状態で従来手法よりも数倍大きい加速度を得ることに成功した。 そこで次に,加熱面を傾けた場合の液滴登坂特性を調べた。表面加工をしない場合には傾斜角が10度程度であっても液滴は滑り落ちてしまうところ,前述の濡れ性分布を持たせることで,初期温度が室温の液滴で傾斜角50度まで,さらに初期温度を90℃まで加熱した液滴では傾斜角90度の垂直壁面であっても,分裂を頻繁に伴うものの,一定の高さに留まったり重力に抗して上昇したりする場合があることを確認した。 ところで,ここまで使用してきた加熱面は,表面形状と濡れ性の両方に前後非対称性を持たせていたため,液滴を一方向へ推進させるためのそれぞれの寄与率が判然としなかった。 そこで本研究では,形状は前後対称な直角二等辺三角形であるが,濡れ性に前後非対称性を持たせた加熱面を作製し,液滴を置いてみた。その結果,液滴は親水面の方向へ決まって進むことを明らかにした。このことから,加熱面の濡れ性に前後非対称性があるだけでも,液滴を決められた一方向へ進ませることができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は計画通り,まず液滴表面の温度分布を,サーモグラフィーカメラを用いて計測するための撮影環境を整え,また計測条件の最適化を行った。この当初計画に加えて,傾斜面を上昇する液滴表面温度の時間変化と登坂特性の関係を明らかにした。さらに,液的内部流動を可視化することを目的として,アルミ薄板をワイヤー放電加工した二次元加熱板を作製した。液滴内部にトレーサー粒子を混入させ,撥水加工した透明ガラスで液滴を挟むことで,疑似二次元液滴を生成し,二次元加熱板上を推進する液滴内部流動のPIV計測と加熱面近傍の沸騰に伴う界面挙動を高速度カメラ観察することを可能とした。以上のことから本年度の進捗状況は当初の計画以上に進展している。 サーモグラフィーカメラ撮影による液滴表面温度分布の時間変化から,液滴表面の流れは,加熱部である液滴底部から進方向の前方部,そして液滴上部へ向かう流れが支配的であることを明らかにした。また,液滴は十分に加熱された後に推進することを,液滴表面温度の直接計測から明らかにした。このことは,予熱された液滴の方が走り始めるまでの時間が短いため,傾斜面に置かれた場合には優位性を有するという実験結果の裏付けとなる。 疑似二次元液滴を用いた内部流動および界面変形の観察結果から,親水面において激しい核沸騰が周期的に生じ,親水面に垂直あるいは親水面を下る方向への界面流動が発生する。このことが,液滴底部の加熱面から進行方向の前方部へ向かう界面流れを誘起し,剪断力により液滴内部にも界面運動と同方向の回転流れが生じることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
前後対称形状である直角二等辺三角形であっても,濡れ性に前後非対称性を持たせれば,液滴は一方向へ推進することを示した。しかし,登坂力を比較すると,前後非対称形状の加熱面に前後非対称な濡れ性を持たせた方が優れている。本研究の最終的な目的は,液滴の三次元的な移動制御とそれによる加熱面の冷却であるため,高い登坂力を示す前後非対称形状加熱面上の推進特性を今後さらに詳細に調べていくこととする。 そのために,まずは再現性良く局所的な濡れ性を改善することを実現するための方策を見出す。高い登坂力を得るためには,親水面と撥水面の境界における界面の付着力(接触角)と,沸騰特性が大きく関与していることが,今年度の研究結果から明らかになっているためである。 濡れ性が変化する界面における沸騰現象は,それ自体が研究対象となり得る。そこで次年度は,液滴推進運動の解析研究と並行して,濡れ性が変化する界面における核沸騰とそれによって生じる界面変形・内部流動特性変化についても実験的に研究を進める。そのために,加熱面上の核生成や接触線の蒸発・再付着を明確に観察することに優れた,光の全反射を利用した可視化手法を導入する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により,当該年度納入予定であった画像処理用計算機の納品が遅れたため。
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