研究実績の概要 |
本申請研究では、サスペンドマイクロデバイスを用いた一分子熱伝導測定技術を利用して、柔軟な周期性の制御と単位格子の定義が可能な生体材料であるDNAの単一分子熱伝導率の定量を目標として研究を遂行している。 最終年度は、1年目に開発したマイクロ加工デバイスとWheatstone bridge回路を利用した超高感度熱伝導率測定法を用いて、生体由来の共有結合性擬一次元材料の単一分子熱伝導測定を行った。本計測手法の妥当性と生体由来の直鎖材料の熱伝導評価を実証するため、平均長さが比較的長く測定がしやすいホヤ由来のセルロースナノファイバー(Cellulose nanofiber, CNF)を実験試料に選定した。実験は、サスペンド構造を有するマイクロ加工デバイスを微細加工プロセスにより準備し、同デバイスに対してCNF分散液を滴下することでデバイスへ試料を導入した。実験の結果、CNFは常温で平均0.2 nW/K程度の熱伝導度を示すことがわかった。これはデバイス間で生じる輻射熱伝導度(約0.1 nW/K)の2倍程度の大きさであることから、輻射熱伝導を同時に測定して実測値から差し引く形で概算したところ、長さ約5μm、平均直径約10 nmのCNF1本の熱伝導率は、常温で2.2(±1.2) W/m/Kと定量することに成功した。また、温度依存性実験の結果、境界フォノン散乱による熱伝導率の抑制効果が生じていることも世界に先駆けて実証した。これらの結果は、断熱材やフレキシブル熱拡散材への応用が期待されているCNF熱デバイスの貴重な設計指針となると考えられる。配列が制御された合成DNAは当初の懸念のように試料長さが短く、同手法での定量には助成期間では至らなかったが、生体由来の直鎖材料の単一分子熱伝導測定手法を確立できた点で大きな意義があり、引き続きDNAをはじめとした様々な生体材料の測定に着手する計画である。
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