氷点下で動作する熱機器において、固体表面上で氷が発生する現象(不均質核生成)を制御することは重要な課題である。本研究では、固体表面近傍の水分子の状態に基づいて、氷の不均質核生成の理解を深めることを目的とする。具体的には、氷の発生を促進する固体表面の結晶構造や電気的特性を明らかにし、その固体表面上での氷の不均質核生成現象を測定・解析し、固体表面の特性と氷発生の相関を調べることによって、氷の不均質核生成の新しいメカニズムを提唱する。今年度は、氷核活性の高いヨウ化銀(AgI)の単結晶基板の作成を試み、電子顕微鏡観察で評価した。また、AgI基板上での水滴の不均質核生成温度を測定し、単結晶基板の性状との相関を調べた。 AgI粒子及び基板の作成手法としては、AgI飽和溶液中のIイオン濃度を調整しておき、これを徐々に水で希釈することによってAgIを過飽和状態として、AgI単結晶を作成する技術を最適化した。AgI結晶を数日間かけてゆっくり成長させると、明瞭なファセットを有する単結晶を作成でき、モルフォロジーの異なる結晶の回収も可能となった。この手法によって、ベーサル面からなるAgI単結晶基板の生成を実現した。基板表面の電子顕微鏡観察から、渦巻き成長を示す成長丘やステップが観察された。 このAgI単結晶基板上に微小水滴(直径10~100μm)を配置し、氷の核生成温度を測定した結果、単結晶基板表面のサブミクロンオーダーの性状に依存せず、ほぼ一様な核生成温度が得られることがわかった。その一方で、基板ごとに核生成温度がばらつくことも確認できた。
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