研究課題/領域番号 |
19K21943
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
新井 史人 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (90221051)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / マイクロマシン / 燃料電池 / 機械力学・制御 / バイオ関連機器 |
研究実績の概要 |
本研究では,生体内で供給可能なグルコースと酸素を燃料とするバイオ燃料電池と,その電位差に伴い発生する電気浸透流反力による自己電気浸透推進機構と,外部磁場による操舵制御機能とを統合した,新規マイクロ泳動ロボットを提案し,マイクロロボットの位置制御システムを実現する事に挑戦する.当初実施を計画していた課題項目は下記(1)~(4)である. (1)磁性を備えた自己推進マイクロロボットの設計・製作:製造プロセスを確立し,マイクロロボットの設計・製作を実施する.(2)磁場操舵制御システムの設計・構築:液体環境下でマイクロロボットを実時間で観察し,位置制御するシステムを設計・構築する.(3)模擬生態環境下での推進速度評価:構築した制御システムを用いて生体環境を模擬した条件で位置制御評価を行い,生体応用への課題を抽出する.(4).研究総括・まとめ 2019年度は主に上記課題項目(1)(2)を実施した.(1)では2光子吸収3次元リソグラフィを用いて,ナノ粒子を含む光硬化性コンポジット多層膜内へのフェムト秒レーザの3次元走査による製造方法を確立した.この方法で製造した約10 μmのマイクロロボットによりグルコース溶液中で100 μm/s以上の自己推進速度を確認し,理論的に予想されていた小型化するほど高速化する特性を実証した.(2)では任意方向に均一磁場を生成するヘルムホルツコイル,顕微鏡・画像分析システム,実時間位置制御システムを設計し,要求仕様を整理した.引き続き詳細設計を進めている.また,本マイクロロボット構造の派生技術としてフィルム状マイクロポンプを考案し,プロトタイプを用いてグルコース溶液に浸すだけで面状の流れを生成可能であることを実証した. 本年度の成果公開については 2件の国際学会発表,また,1件の国際ジャーナル誌への外国語論文投稿を行い掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従い2019年度は下記課題項目(1)(2)を実施した. 「(1)磁性を備えた自己推進マイクロロボットの設計・製作」サブ項目(1-1)製造プロセスの確立,(1-2)マイクロロボットの設計・製作を実施した.2光子吸収3次元リソグラフィを用いて,ナノ粒子を含む光硬化性コンポジット多層膜内へのフェムト秒レーザの3次元走査による製造方法を確立した.本マイクロロボットは2つの電極層とその間の絶縁層から構成される.それら3層においてレーザのパワー・走査スピード条件を同一とすることが望ましく,絶縁層は非導電性ナノ粒子を含むコンポジットを用いた.非導電性ナノ粒子としてフラーレンもしくは磁性ナノ粒子いずれにおいても製造が可能であることを確認した.この方法で製造した約10 μmのマイクロロボットによりグルコース溶液中で100 μm/s以上の自己推進速度を確認し,理論的に予想されていた小型化するほど高速化する特性を実証した. 「(2)磁場操舵制御システムの設計・構築:液体環境下でマイクロロボットを実時間で観察し,位置制御するシステムを設計・構築する.」サブ項目(2-1)磁場操舵制御システム設計を実施した.任意方向に均一磁場を生成するヘルムホルツコイル,ロボットの位置と姿勢を観察する顕微鏡・画像分析システム,実時間位置制御システムを設計し,要求仕様を整理した.引き続きヘルムホルムコイルシステムの詳細設計を進めている. また,本提案のマイクロロボットの派生技術として,バイオ燃料電池と電気浸透流ポンプから構成されるフィルム状マイクロポンプを考案した.そのプロトタイプを製造し,グルコース溶液に浸すだけで面状の流れを生成可能であることを実証した. 上記の研究成果について,2件の国際学会発表,また,1件の国際ジャーナル誌への外国語論文投稿を行い掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度から引き続き2020年度は次の内容を実施する. (2)磁場操舵制御システムの設計・構築:次のサブ項目(2-2)流路基板設計・製作,(2-3) 磁場操舵制御システム構築・デバッグを実施する.(2-2)ではロボットを収容するマイクロ流路基板を製作する.(2-3)では(2-1)で設計した磁場操舵制御システムを構築し(2-2)で製作した流路基板を用いて制御システムの1次評価を行い,デバッグを行う.特に,高電流の安全対策を確実に行い,磁場操舵のための方向磁場が設計通りに発生しているか,コイルの発熱が想定内かを確認する. (3)模擬生態環境下での推進速度評価:構築した制御システムを用いて生体環境を模擬した条件で位置制御評価を行い,生体応用への課題を抽出する.まずグルコース溶液中で,回転磁場によるマイクロロボットの円運動を実現し,円軌道の半径の変化を観察することで自己推進速度の安定性を評価する.次に自己推進・操舵制御を用いた位置決め制御手法を確立する.特に流体環境の対流速度や,自己推進速度の変動を考慮した制御戦略を確立する.次に,ヒトの血漿の組成を模擬した液体や,ウシなどの血液を用いて同様の実験評価を行い,グルコース溶液と異なる挙動を評価する.その差異から生体適合性に関する課題を抽出し,考察する.特に,赤血球などの凝着はどの程度発生するか,それらによって推進速度は変動するか,推進速度の変動に応じた位置制御が可能かなどの点に着目し,評価を行う.これら抽出した課題に対し,解決策を考案・適用し,再度評価検証を実施し,生体適合性への可能性を明示する. (4)研究総括・まとめ:次のサブ項目を実施する.(4-3)自己評価・まとめ(年度末). 上記の研究成果について,国内・国際発表を行い,また,国際ジャーナル誌への外国語論文投稿を行う.
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