研究課題/領域番号 |
19K21950
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
澤田 秀之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00308206)
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研究分担者 |
前田 真吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (40424808)
重宗 宏毅 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (40822466)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 油滴 / マランゴニ対流 / オレイン酸 / 界面活性剤 / 化学反応 / 自走 / 形状記憶合金ワイヤ / 水中物体搬送 |
研究実績の概要 |
界面活性剤の水溶液に油滴を滴下すると、内部にマランゴニ対流が発生して油滴が自走する現象が知られている。自走のエネルギーは油滴の界面における界面活性剤の濃度差に起因し、この濃度差は油滴内の無水オレイン酸が加水分解反応を起こすことによって保たれる。電気などの外部エネルギーを必要としない化学反応に起因する自律的現象は、ミリ・マイクロスケールにおける有力な物体移動法となり得る。本研究では、微細な形状記憶合金(SMA: Shape memory alloy)ワイヤアクチュエータを油滴の外骨格として与えることで、油滴の自走方向および速度の動的制御を実現することを目的とする。 研究2年目となる2020年度は、界面活性剤の水溶液中に滴下した油滴の形状、溶液の物理条件と自走パターンに関する考察をおこなった。ブーメラン型にくり抜いた外骨格を用いて、これを無水オレイン酸を主成分とする油滴の形状固定に用いた。また、油滴中に紫外光により発光する微粒子を混入させることで、マランゴニ対流の可視化をおこなった。ブーメラン形状の前後の曲率、界面活性剤溶液の温度および湿度を様々に変化させ、内部対流と油滴の自走パターンを観測し、これらの物理条件の関係性について考察した。その結果、形状の曲率により内部対流速度と自走速度が変化することが分かり、最大速度を得る曲率を得た。また曲率を不均等に変えることで内部対流の大きさが変わり、自走方向も変化することが分かった。一方、溶液の温度と湿度によっても自走形態が変化し、例えば湿度20%と80%における油滴の移動スピード比は1.65:1となり、対流速度比は1.61:1であることが分かった。 これらの知見を基に、SMAアクチュエータを用いて外骨格の形状と溶液温度を動的に変化させることで、油滴の自走制御へと発展させていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
油滴を界面活性剤の水溶液に滴下すると、油滴界面に界面活性剤の濃度差ができ油滴内部にマランゴニ対流が発生する。本研究は、このマランゴニ対流によって、無水オレイン酸を主成分とする油滴が水溶液内を自走する現象を物理学的に解明し、更にその自走を制御する手法を実現することを目的としている。油滴の自走機序は流体力学的現象に基づくものであるが、未だ詳細に解析された報告は見当たらず、またこの原理に基づく油滴自走の制御は前例がない。 初年度の研究により、自走する油滴内のマランゴニ対流を可視化することで、PIV(粒子画像流速測定)法により粒子の流れを定量的に考察することが可能となった。2020年度は、界面活性剤の水溶液中に滴下した油滴の形状、溶液の物理条件と自走パターンに関する考察をおこなった。特に、自走時の油滴の形状と内部のマランゴニ対流、溶液の温度と湿度に着目し、これらを様々に変化させながら自走状態を観測し、物理条件の関連を考察した。その結果、油滴形状、溶液の温度と湿度の条件によりマランゴニ対流が変化し、自走形態の変化に繋がることを示した。また、外骨格フレームを変形させ、更に油滴周りの溶液の温度を変化させるためのSMAアクチュエータに関する研究も進めた。SMAワイヤに微小電流を流すことにより、ワイヤ温度が上昇して長さ方向に縮むため、これを外骨格に適用する可能性を見出した。 以上の成果は、当初の研究計画に沿ったものとなっている。研究最終年度となる2021年度は、SMAアクチュエータを用いて外骨格の形状と溶液温度を動的に変化させることで、油滴の自走制御へと発展させていく。更に油滴の自走制御を、スタンドアローンで移動して注入まで行うドラッグデリバリーシステムの確立へと展開する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、微細な形状記憶合金ワイヤアクチュエータを油滴の外骨格として与えることで、油滴の自走方向および速度の動的制御をおこなうことを目的としている。これまでの研究で、ブーメラン型にくり抜いた外骨格を用いることで、油滴の自走方向と速度を制御できることを示した。特に、自走時の油滴の形状と内部のマランゴニ対流、溶液の温度と湿度に着目し、これらを様々に変化させながら自走状態を観測し、物理条件の関連を考察した。その結果、油滴形状、溶液の温度と湿度の条件によりマランゴニ対流が変化し、自走形態の変化に繋がることを示した。並行して、外骨格フレームを変形させ、更に油滴周りの溶液の温度を変化させるためのSMAアクチュエータに関する研究も進めた。 研究最終年度となる2021年度は、これまで考察してきたオレイン酸系の油滴だけでなく、ペンタノール系の自走油滴についても、内部対流と自走との関連を調査する。二種類の油滴に ついて、各種環境要因、濃度依存性、内部対流との関連を詳細に解析して、駆動原理の理論化につなげていく。また、SMAアクチュエータを用いて外骨格の形状と溶液温度を動的に変化させることで、油滴の自走制御へと発展させていく。更に油滴の自走制御を、スタンドアローンで移動して注入まで行うドラッグデリバリーシステムの確立へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は当初の予定通り進んでいる。しかし論文発表を予定していた国際学会が次年度に延期されたため、学会の参加費と渡航費を繰り越した。
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