半導体集積回路を構成するトランジスタは結晶ひずみを導入することで駆動電流の増大を図っている。本研究では負の熱膨張係数を有する材料を用いた全く新しいひずみ導入技術を創成する。負の熱膨張係数有する材料は温めれば縮小し、冷却すると膨張する特徴を示す材料である。負の熱膨張係数を示す材料としてマンガン窒化物が挙げられる。本材料をゲート電極として高温環境下で堆積すると、熱膨張しているシリコン上に堆積されることになる。その後、室温まで戻すと、シリコンは膨張前の状態に戻ろうとするが、ゲート電極の熱膨張係数が負の値であるため、ゲート電極は膨張し、シリコンの収縮を妨げるように働く。そのため、室温に戻してもシリコンは膨張した状態となり、引張ひずみが導入された状態と同等となる。このようにゲート電極に負の熱膨張係数を有する材料を用いた新しいトランジスタを作製することが本研究の目的である。 本年度では初年度で開発した窒化マンガン化合物のマイクロ/ナノ加工の技術を用いることで負熱膨張ゲート電極を有するSOI(Silicon on Insulator)トランジスタを試作した。十分に薄いSOI層を用いることでSiに印加される応力は一定と見なすことができ、解析が容易となる。そのため、SOI基板を用いた。試作したトランジスタは適当なトランジスタ特性を示した。また、比較のために正の熱膨張係数を有するアルミニウムをゲート電極として用いたトランジスタも試作しており、負熱膨張ゲート電極を有するトランジスタはアルミニウムをゲート電極に用いたトランジスタよりも高い駆動電流を示した。これは負熱膨張材料によりシリコンに引張ひずみが導入されたためと考えられる。 以上により、本研究の目標である負熱膨張材料による新しいひずみ導入技術の開発に成功したと結論づける。
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