研究課題/領域番号 |
19K21954
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
末益 崇 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40282339)
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研究分担者 |
磯上 慎二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主任研究員 (10586853)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | フェリ磁性体 / 垂直磁気異方性 / スピン移行トルク / 磁壁移動 |
研究実績の概要 |
本研究では、フェリ磁性体Mn4Nをベースとする新規スピントロニクス材料を開拓することを目的とする。2019年度は、Mn4NにNiを添加したMn(4-x)Ni(x)N膜をエピタキシャル成長し、磁化特性および磁気輸送特性から、室温で垂直磁気異方性を保持しつつ、磁化がゼロに近づくNi組成を見出すことを目的として研究を進めた。 これまでの研究により、Mn4N細線において、スピン移行トルクのみにより、電流駆動磁壁移動速度として室温で世界最速の900m/sを達成している。このようなMn4NにNiを添加して、磁化が室温で補償する組成比近傍で、電流駆動磁壁移動速度が格段に増大する可能性がある。 2019年度は、Ni組成を0から0.5まで細かく変えたMn(4-x)Ni(x)N膜を、チタン酸ストロンチウム基板上に分子線エピタキシー法によりエピタキシャル成長した。磁気輸送特性からNi組成x=0.1と0.25で、垂直磁気異方性を保持しながら、異常ホール係数の符号が急峻に変化したこと、飽和磁化がxの増加とともにx=0.2程度まで直線的に減少し増加に転じたこと、さらに、磁化の温度特性が変則的であることの3点から、x=0.1と0.25の間に磁化補償点があると予想した。この予想に基づき、X線磁気円二色性(XMCD)測定をx=0.1と0.25のNi組成をもつ試料に対して行い、両者で、XASおよびXMCDスペクトルから、NiはコーナーサイトのMnを置換すること、さらに、MnおよびNiの磁気モーメントが両者で反転していることを見出した。これら一連の結果により、Mn(4-x)Ni(x)N膜では、x=0.1と0.25の間で、磁化がゼロになることを実験で証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mn(4-x)Ni(x)N膜について、Ni組成が少ない領域の試料に注目し、それらの磁化特性および磁気輸送特性から磁化補償点を予想し、実際に、磁化補償の前後のNi組成で、MnおよびNi原子の磁気モーメントが反転していることをX線磁気円二色性測定で明らかにできたことは大変意義がある。このように、磁化がゼロに近づくNi組成の試料において、室温で電流誘起磁壁移動速度が従来の値を大幅に超える可能性がある。このように、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究により、Mn(4-x)Ni(x)N膜では、x=0.1と0.25の間で、磁化がゼロになることが実験により明らかになった。このため、この間の組成比で、電流駆動磁壁速度が極端に大きくなる可能性がある。 このため、Mn(4-x)Ni(x)N膜でx=0.1と0.25の間のNi組成を細かく変えた試料を用意して、それらを細線に加工して、電流駆動磁壁移動の実験を行い、磁壁の移動速度を測定し、本材料系のスピントロニクス材料としてのポテンシャルを明確にする。 また、Ni以外についても、磁化補償点を見出す。具体的にはCoを選び、Mn4NにCoを添加したMn(4-x)Co(x)N膜において、Mn(4-x)Ni(x)N膜で行ったのと同様に、磁化特性、磁気輸送特性、X線磁気円二色性の測定を行う計画である。
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