研究課題/領域番号 |
19K21955
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
丸本 一弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (50293668)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 有機発光デバイス / 素子動作機構 / 電子スピン共鳴 / 発光電気化学セル / 有機イオントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究は発光電気化学セル(LEC)の素子動作機構を分子レベルで解明し、素子高特性化を目指すことを目的とする。従来手法では電荷ドーピング状態や形成過程等について直接的な観測が出来ず、LEC中の電荷状態や動作機構等は微視的な観点から明らかにされていない。そこで電子スピン共鳴(ESR)分光によるオペランド直接観測を行い、従来手法では成し得なかった微視的な観点からのLECの動作機構の解明を行う。 本年度は、発光層に青色発光Hostポリマーと発光効率向上の機能を持つゲスト材料である分子三重項-三重項消滅(TTA)ポリマーを用いたLEC素子を作製し、印加電圧を変化させながら、素子特性とESR信号の同時測定を行った。 HostポリマーLECの電流密度-電圧-輝度(J-V-L)特性評価により、LECの素子動作を確認した。また、オペランドESR測定の結果、印加電圧の増加と共に信号強度の増加が観測された。得られた信号の解析から、この信号は発光層のHostポリマーのカチオン由来であると同定された。この信号のg因子は電圧依存性を示し、得られた差分ESR信号の解析より、新たな信号の起源はHostポリマーのアニオン由来と同定された。この結果から、p型ドーピング後にn型ドーピングが進行するドーピング過程が示された。 TTAポリマーLECについても同様な特性評価を行い、LECの素子動作を確認した。ESR信号の解析から、発光開始前ではTTAポリマーのアニオン由来の信号が、発光開始後にはTTAポリマーのカチオン由来の信号が得られた。この結果から、LECに電圧を印加した後、初めにn型ドーピングが生じ、その後、p型ドーピングが進行するLECのドーピング過程が示された。 以上より、異なるLECのオペランドESR研究を行うことで、発光ポリマーの種類に依存してドーピング過程が異なることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、LEC素子の発光原理や動作機構を解明することを計画し、発光層にHostポリマーとTTAポリマーを用いたLEC素子を作製し、ESR測定可能なLEC素子の動作確認を行い、オペランドESR測定に成功した。以下に、達成出来た点の要点を簡潔に述べる。 まず、Hostポリマーを用いた青色発光LECでは、オペランドESR信号のg因子の解析により、p型ドーピングが始まった後にn型ドーピングが進行するドーピング過程が示された。この振る舞いは、これまで報告してきた黄色蛍光材料Super Yellowを用いた黄色発光LECのオペランドESR研究の結果と同様である。この結果は、Host材料の最高占有分子軌道(HOMO)と透明電極電極ITOの仕事関数のエネルギー差が、Host材料の最低非占有分子軌道(LUMO)と陰極Agの仕事関数との差よりもかなり小さく、正孔注入のエネルギー障壁が小さいためであると解釈できる。 一方、TTAポリマーLECでは、上記と逆のドーピング過程が示された。つまり、LECに電圧を印加した後、初めに電子注入によるn型ドーピングが生じ、その後、正孔注入によるp型ドーピングが進行する振る舞いが得られた。この結果は、Hostポリマーの場合と比較すると、TTAポリマーのLUMOとHOMO準位がかなり深くなっているためあると考えられる。つまり、LUMO準位とAgの仕事関数とのエネルギー差が少なくなり、電子注入障壁が大きく減少したこと、および、HOMO準位とITOの仕事関数とのエネルギー差が大きくなり、正孔注入障壁が大きく増加したことが原因であると考えられる。 以上より、異なるLECのオペランドESR研究を行うことで、発光ポリマーの種類に依存してドーピング過程が異なることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、令和元年度の研究を発展させると共に、Hostポリマーのアニオンの密度汎関数(DFT)計算を行い、その結果を観測されている差分ESR信号の結果と比較することで、HostポリマーLECの電荷ドーピング過程を更に立証する。また、HostポリマーLECのESR信号のフィッティング解析から得られた複数のESR信号の起源の同定を行うため、LEC素子で用いているイオン液体([P66614][TFSI])の素子中での実効的な酸化還元電位をESR研究から考察し、得られた実験結果と対応させる。更に、HostポリマーとTTAポリマーの両方を発光層に用いたLECを作製することで、発光ダイオードと同様に発光過程にTTAを利用したLEC素子を作製し、オペランドESR研究を進め、ホストゲスト系のドーピング過程を研究する。以上の研究より、LECの発光原理や動作機構の解明を更に詳細に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行により、参加予定の学会が中止になったため。
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