研究実績の概要 |
1.角度分解光電子分光法を用いてN型強磁性半導体(In,Fe)Asのバンド構造の解明に初めて成功した。本萌芽研究では(In,Fe)As量子井戸構造において2次元波動関数の制御により超高速磁化変調を目指しているため、(In,Fe)Asのバンド構造の解明が大変重要である。本実験では(In,Fe)Asのバンド構造が明瞭に観測でき、フェルミレベルが伝導帯にあること、Fe不純物帯が伝導帯の底に位置することを明らかにした。このため(In,Fe)Asの電子キャリアの高いコヒーレンス性と強い磁気交換相互作用が両立できると考えられる。本成果をPhys. Rev. B雑誌に発表した。 2.閃亜鉛鉱構造FeAs(1原子層)/InAs超格子の結晶成長と物性制御に初めて成功した。FeAs原子層の間隔(InAsの膜厚)を短くすることより超格子全体の磁気特性(キュリー温度、巨大磁気抵抗効果)を急に増大させることに成功した。InAs膜厚が最短(5原子層)の構造で500%の巨大磁気抵抗効果が確認された。FeAs/InAs超格子構造は超高速磁化制御の有望な材料系だと考えられる。本成果はNature Communicationsへ投稿中である。 3.(In,Fe)As強磁性量子井戸において、波動関数制御によるサブピコ秒(660 fs)の超高速磁化増大に初めて成功した。実験にはフェムト秒パルスレーザーをポンプ光、フォトンエネルギー51 eVのX線自由電子レーザーをプローブ光として、時間分解共鳴磁気光学効果(Resonant Magneto-Optical Kerr Effect, XMOKE)測定を行った。試料には、In0.92Fe0.08As (10nm)/InAs (5 nm)の二層量子井戸構造を用意した。測定温度9 Kにおいて、ポンプ光によりプローブ光のカー回転角が660 fsで増加したことを確認し、(In,Fe)Asの磁化が超高速で増大した結果が判った。本成果の磁化増大の時間スケールは先行研究より1000倍も速く、世界最速の磁化増大が実現できたと言える。
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