研究課題/領域番号 |
19K21964
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安岡 康一 東京工業大学, 工学院, 教授 (00272675)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 電気接点 / 溶融ブリッジ / アーク / 高融点材料 / 可変抵抗 |
研究実績の概要 |
再生可能エネルギーの大量導入に伴い,蓄電装置を含めた直流電力の利用拡大が急務である。しかし直流は交流と異なり電流ゼロ点がなく遮断が困難である。現在は半導体パワーデバイスを使用したハイブリッド型遮断器の研究が主流であるが,機械接点開極時に接点間に発生する短時間アークによって,接点損耗が起こり多頻度開閉や長寿命化を妨げている。また半導体遮断器はアークが発生せず高速かつ長寿命であるが,熱損失が大きく小型化・低価格化が難しい。 本研究ではアークフリーのハイブリッド遮断技術を刷新するもので,kA級のアークフリー遮断を目標としている。ハイブリッド遮断器は,機械接点とSiC-MOSFET,およびバリスタを並列接続した構成である。通常,機械接点開極時には接点間にアーク放電が発生するが,アークは電極接点を損耗させ,強い電磁ノイズを発生させるためアークフリー技術が必要である。申請者らは接点間アークの発生を抑止するために,高沸点のタングステン接点を銅基材上にマイクロドットとして形成し,電流集中分布を制御することで電極表面温度の上昇を抑制しアークを抑止することを提案した。銅基材上に複数に分割したタングステン接点をロウ付けし,接点表面温度の上昇を防止してアークフリー限界電流を増加させる研究を進めた。シミュレーションで接点最高温度を評価した結果,接点分割により最高温度が顕著に減少することを確認した。しかし実際に分割電極を製作して試験した結果,分割接点に均等に電流を配分することが難しく,アークフリー限界電流の増加は実現できなかった。このため接点を分割して温度上昇を防ぐ方針を転換し,開極時の接点抵抗を徐々に増加させるスライド式可変抵抗接点の開発をすすめることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は直径10mmの円柱銅基材上に厚さ1mmのタングステン電極をロウ付けし,タングステン部を加工し,1辺1.5mmの正方形断面をもつ4分割接点を形成した。電流通電面積を同一として非分割型と分割型接点で接点温度をシミュレーションから求めた。通電面積は一定として接点電流の合計は450Aの条件で計算した結果,接点表面の最高温度は従来のタングステンクラッド銅接点で約1620K,4分割接点のうち2つに通電した場合は約530K,4分割接点の全てに通電した場合は約380Kと減少した。通電面積が等しい場合でも接点間隔を広く取って銅基盤への放熱を増加させると,接点温度は低下することがわかった。一方実際に4分割接点を使用してアークフリー限界値を調べたところ,従来と同様に400Aとなった。実験後に接点表面の溶融状態を調べた結果,4分割接点に均等に流れていないことが判明した。このため分割接点は,接点最高温度を低下させる手段として有効であるが,分割接点全てに均等に電流を流すことは困難であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
アークフリー遮断を実現するためには,アークが発生する前に機械接点から半導体パワーデバイスに転流させることである。このためには接点電圧が高いほど有利であるが,タングステンを使用する場合は,沸騰温度(約5500℃)によって決まる沸騰電圧2Vが接点電圧の上限である。今年度は分割接点によって接点表面から銅基材に放熱することで最高温度を下げる方法に挑戦した。シミュレーションでは効果を確認した一方で,実験では分割電極に均等に通電する困難さからアークフリー電流は増加しなかった。このため次年度は発想を転換し,材料の沸騰温度に制限されずに転流時の電圧を2V 以上にできる抵抗接点を導入して,パワーデバイスへの転流を促進する方針とする。なおアークフリーのための接点電圧上限値は大気圧空気中でアークが発生する接点間電圧で制限され,13.5V程度である。また通常時の接点抵抗は銅接点程度に低いことが要求される。このため,通常時は銅接点間で通電し,転流時は銅よりも抵抗の高い材料,例えばカーボン材料にスライドさせる。なお接点材料の抵抗値が変化するときには,回路インダクタンスによりサージ電圧が発生してアークとなるため,抵抗値は時間とともに最適な変化率で上昇する可変型であることが望ましい。この方式でアークレス限界電流をkA級に増加させることに挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たに取り組むことに決めた機械接点材料は,材料選定と構造設計が特殊であり,製作に時間を要するため今年度の納品は困難であることがわかった。このため今年度に設計を完了して次年度に製作することにした。
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