研究課題/領域番号 |
19K21966
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鵜沼 毅也 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (20456693)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 共役ポリマー / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
昨年度に構築したテラヘルツ放射分光測定装置の検出強度や検出周波数範囲を最適化し,試作済みの有機半導体薄膜の測定に着手した。比較のために,バリスティック伝導がすでに観測されている無機半導体のGaAs結晶にも同一の表面電極加工と面内印加電圧を適用し,測定を行った。その結果,試料への面内印加電場(面内印加電圧を電極間隔で割った量)を高める必要があることが判明した。測定においては,電極の間に光パルスを集中させて照射するため,電極間隔が狭すぎると有機半導体薄膜を損傷させてしまうという問題が生じる。そこで,測定系に電圧アンプを導入しつつ,薄膜試料の面内に一桁以上高い電圧を安全に印加できるような改良を行った。 また,伝導経路をもつ有機分子を異なる有機ナノ母体材料で保護することによるバリスティック伝導顕在化の可能性についても,昨年度の結果を踏まえてさらに検討を進めた。長い時間スケールでの導電性がよく知られている共役ポリマーのPEDOT:PSSを母体材料のセルロースナノクリスタルに分散させた有機薄膜を作製し,テラヘルツ透過分光で非接触にキャリアの伝導特性を評価したところ,キャリアはPEDOT:PSSにおける元の性質をそのまま引き継いだ状態で母体材料に包まれていることが分かった。今後,PEDOT:PSSの代わりに同種の主鎖をもつ未ドープの共役ポリマーをナノセルロースと組み合わせれば,光パルス照射でキャリアを作りバリスティック伝導させるための薄膜試料へ発展させることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テラヘルツ放射分光測定装置の最適化を予定通り進め,有機半導体薄膜の測定に着手して解決すべき問題の一つを明らかにすることができた。また,薄膜試料中の伝導経路形成に関して新たな可能性を見出すことができた。挑戦的研究として,試行錯誤を積極的に行いながらバリスティック伝導現象の顕在化と制御の要素を整理することがコロナ禍でも順調に進展しており,目的の達成に向けて全体的に次年度の計画へスムーズにつながる状態にあると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と本年度に整理したバリスティック伝導現象の顕在化と制御の要素を重点的に調べ,その結果を有機半導体薄膜試料の作製段階に繰り返しフィードバックしながら,テラヘルツ放射分光およびデータ解析を進めていく。次年度は最終年度にあたるので,三年間の研究成果を体系的にまとめることを念頭に置きつつ,複数の要素を並行して効率的に実施する。
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