研究課題/領域番号 |
19K21971
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
黒澤 昌志 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (40715439)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | シリコンスズ / 結晶成長 / ボンドエンジニアリング |
研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者が世界をリードしているIV族混晶半導体:シリコンスズ(Si100-xSnx)を題材とし、 直接遷移化の可能性を探求すると共に、ボンドエンジニアリング技術の構築に挑戦することを目指している目的としている。本年度得られた成果を以下に示す。 物性評価が可能な領域(数μm2)のSn組成が均一な薄膜形成に向けて、固相成長法および分子線エピタキシー法を検討した。前者では積極的に熱非平衡状態を活用したものの、結晶成長中にSn原子の拡散が生じるため薄膜の面内および深さ方向の組成分布の均一化は困難であった。一方、後者では、結晶成長時の成膜レート・基板温度を精密に制御することで、Sn析出のないSi100-xSnx(x<10%)薄膜の形成に成功した。均一性が改善された結果、X線回折逆格子空間マッピング測定で回折ピークが観測されるようになり、格子置換位置Sn組成、歪み量を切り分けて評価することが可能となった。フーリエ変換赤外分光測定から評価したバンドギャップは、x=5%で~0.8 eV(間接遷移型)であり、完全歪緩和状態を仮定した理論予測と比較すると0.3 eV程度小さな値であった。これは、薄膜に内在する面内圧縮歪みの影響を受けてバンドギャップが狭小化したためだと考えられる。 理論においては、様々なSn原子配置に対する熱力学安定性を考慮したモンテカルロシミュレーションをクラスター展開法を用いて構築した。各温度に対する最安定のSn原子配置を明らかにするとともに、高温熱処理でSn原子が泳動しSn組成が周辺より高いナノ粒子が薄膜中に形成される可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、物性評価が可能な領域(数μm2)のSn組成が均一なシリコンスズ薄膜の形成に成功しており、光物性だけでなく、電子物性、熱物性などの評価にも展開している。X線回折逆格子空間マッピング法を用いてシリコンスズ薄膜のSn組成と歪み率の切り分けに成功したのは初めての例である。UV顕微ラマン分光法での歪み評価に必要な歪み換算係数の導出、ガリウムをドーピングした薄膜において巨大なゼーベック係数が得られるなどにも結実している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度確立した分子線エピタキシー法の先鋭化を行うとともに、理論予測により明らかとなったシリコンスズ薄膜の熱力学安定性を実験側から検証する。特に高Sn組成域(>10%)の結晶成長・物性評価に注力し、直接遷移化の可能性を探求するとともに、本研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主要な物品の納品が年度をまたいだため、次年度使用額が発生した。すでに納品されており、実験計画、使用計画等に大きな変更はない。
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