本研究では、研究代表者が世界をリードしているIV族混晶半導体:シリコンスズを題材とし、 直接遷移化の可能性を探求すると共に、ボンドエンジニアリング技術の構築に挑戦することを目指している目的としている。本年度得られた成果を以下に示す。 Sn組成21%のシリコンスズと格子整合するGaAs基板上へのエピタキシャル成長を試みた。Si基板上でのシリコンスズ形成と同様に、GaAs基板上でのシリコンスズ形成においても設計Sn組成増大に伴い、エピタキシャル成長可能な堆積温度が低下した。さらに、GaAs基板上では、Si基板上に比べ、50℃程度低い温度で成長可能であることが判明した。Sn析出抑制に好適な結果ではあったが、格子置換位置Sn組成は最大で約6%とSi基板上と比較し大幅な増大は達成できなかった。この解決には、ゲルマニウムスズと同様、成膜速度増大によるSn析出抑制が鍵と推測される。 シリコンスズの新たな応用可能性として熱電物性評価を行ったところ、シリコンに比べ2倍以上大きなゼーベック係数が観測された。この要因を探るために、エネルギーバンド構造の観点から調査を行った。硬X線光電子分光法により電子状態密度の形状を評価し、高いゼーベック係数が得られた試料の共通点として、フェルミ準位における電子状態密度の傾きが他の試料と比べ急峻であることが明らかとなった。
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