研究課題/領域番号 |
19K21972
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森山 貴広 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50643326)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 反強磁性共鳴 / 反強磁性スピントロニクス |
研究実績の概要 |
反強磁性体の最も魅力的な特性の一つに、THz帯域に達する高い共鳴周波数がある。これは、反強磁性共鳴周波数が分子磁場に比例するためで、通常の強磁性体における強磁性共鳴(GHz帯域)に比べて圧倒的に高い。一般に、磁化の動的応答時間の下限値は共鳴周波数の逆数で決まる。すなわち、反強磁性体磁化はピコ秒~サブピコ秒で応答可能である。この反強磁性体の超高速な磁化応答時間を利用した、超高速の磁気メモリ素子や、スピンロジック素子などの超高速スピンデバイスの実現は十分可能であると考える。本課題は、反強磁性体のサブピコ秒の磁化反転およびその検出を行い、従来の強磁性体スピン素子では成し得なかった超短時間領域の磁化反転ダイナミクスを理解し、さらにサブピコ秒超高速磁気メモリの動作実証を行うことを目的としている。 本年度は主に、サブピコ秒の電流パルスを生成しデバイスに注入する手法について検討および実験的検証を行った。GaAs基板上に光伝導スイッチを作製し、レーザー照射時に生成される電流パルス強度が磁化反転に十分であることを確認した。さらに、その光伝導スイッチ近傍に反強磁性体素子を配置して、素子に電流パルスが注入されていることを確認した。しかしながら今のところ、反強磁性体の磁化反転に起因した電流パルス印加前後の有意な抵抗変化は観測できていない。原因として、電流密度が十分でないこと、抵抗測定時の信号ノイズ比が小さいことなどが挙げられる。 また、反強磁性体の磁化ダイナミクスを理解するためテラヘルツ分光を利用した反強磁性共鳴の実験も行った。本実験により、ダンピング定数がNiOの結晶性によって大きく異なることを明らかにした。結晶性によるダンピング定数の増減は、強磁性体においてよく知られているが、反強磁性体においては初めて実験的に示した。これらは反強磁性体の磁化反転ダイナミクスを予想・理解する上で重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、サブピコ秒の電流パルスを生成しデバイスに注入する手法について検討および実験的検証を進めることができている。GaAs基板上に光伝導スイッチを作製し、レーザー照射時に生成される電流パルス強度が磁化反転に十分であることを確認しており、さらに、その光伝導スイッチ近傍に反強磁性体素子を配置して、素子に電流パルスが注入されていることも確認した。これらの実験過程において、電流密度が十分でないこと、抵抗測定時の信号ノイズ比が小さいことなど、今後の研究方針に関わる問題点を洗い出せている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、反強磁性体の磁化操作を実現するには現行のデバイス案では電流密度が十分でないこと、抵抗測定時の信号ノイズ比が小さいことなどが問題点であることが分かった。今後は、デバイス配置や大きさを工夫することでこれらの問題を克服し、反強磁性体のサブピコ秒の磁化反転およびその検出、さらに超短時間領域の磁化反転ダイナミクスを理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は学会成果発表に伴う海外出張を数件行い、当初の計画通りの旅費が掛ったが、招待講演が多く、その大部分を先方で負担いただいた。このため、当初の計画よりも旅費支出が少なくなり、次年度の旅費に繰り越すこととした。
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