研究課題/領域番号 |
19K21979
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 久 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80326636)
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研究分担者 |
羽深 昭 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30735353)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | センサ |
研究実績の概要 |
今年度は検出時間の短縮を試みた。これまでは測定開始から蛍光強度が増大するまでに約60分のタイムラグがあった。この理由として、測定日ごとに液体培地を作っており、この培地の濃度が通常の10倍であるため、サンプルと混合し大腸菌が取り込めるまで十分に溶解するまでに時間がかかることが考えられた。 そこで、培地成分をよく溶かしたのち、これを凍結乾燥した。これに水サンプルを入れることで、培地成分と大腸菌が瞬時に混合されると考えた。本技術の詳細を以下に示す。96ウェルマイクロプレートの1ウェルに培地0.02 mLとサンプル0.18 mLを添加した。培地は、蒸留水1 Lにペプトン5.0 g、塩化ナトリウム5.0 g、ピルビン酸ナトリウム1.0 g、リン酸二水素カリウム1.0 g、リン酸水素二カリウム4.0 g、硝酸カリウム1.0 g、ラウリル硫酸ナトリウム0.1 g、イソプロピル-β-Dチオガラクトピラノシド(IPTG)0.1 g、MUG 0.1 gを添加することで作製した。この液体培地を1サンプルにつきマイクロプレートの10ウェルに分注した。マイクロプレートをマイクロプレートリーダーに設置し、温度を37℃に設定し、10分毎に24時間にわたり蛍光強度を測定した。 実験結果の一例を述べる。蛍光強度は測定後10分以内に増大した。60分間の測定では蛍光強度は直線的に増大したため、測定開始から30分までのプロットをEXCELを用いて直線近似し、傾きを求めた。同様の測定を繰り返し、クロモカルトで求めた大腸菌数と傾きの関係を解析した。大腸菌数と傾きにはある程度の正の相関が見られた。近似直線の関数はY = 0.096 X + 2.4、決定係数は0.71であった。以上の結果から、この関数を検量線として用いることで、測定開始から30分でおおよその大腸菌数を定量できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では2時間以内に測定することを目標としていたが、研究を重ねた結果、30分で測定することに成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は超高感度化を目指す。具体的な研究計画を以下に示す。上述の液体培地に寒天を添加し、熱し、6ウェルマイクロプレートの各ウェルに寒天培地を作成する。サンプルをメンブレンフィルター(A045H047AおよびA045A025A、アドバンテック東洋株式会社)でろ過し、大腸菌をフィルター上に捕捉する。補足した面が寒天培地表面に接するようにフィルターを設置し、従来法と同様に蛍光強度を測定する。フィルターでサンプル中の大腸菌を濃縮し、検出限界値を飛躍的に下げることを試みる。目標値は10個/Lとする。現在の検出限界値は10個/mLであるため、これに成功すれば感度を1,000倍の感度向上を達成できることになる。 このような超低濃度サンプルでは、上述のように培養開始直後から蛍光強度が上がらないことが予想される。そこで全く新たな検出法を採用する。この新規の方法はリアルタイムPCR方からヒントを得たものである。蛍光強度の変化は大腸菌の増殖曲線に等しい。よって、対数増殖期には蛍光強度が指数関数的に増大するものと予想される。これが正しければ、初期大腸菌数が高いサンプルほど対数増殖が始まる時間が早いという仮説が成り立つ。そうであれば、これを出力値として大腸菌数を定量できるのではないかと考えた。対数増殖が始まる時間を客観的に決定するため、サンプルの蛍光強度が、ブランクの蛍光強度の平均値にその標準偏差の10倍を足した値(閾値)を超えた場合、統計学的に優位に蛍光強度が増大した(対数増殖が始まった)と定義する。サンプルの蛍光強度が閾値を超えた時間を「対数増殖開始時間」と定義する。上述のようにサンプルを培養し「対数増殖開始時間」を求める。同様の測定を繰り返し、クロモカルトで求めた大腸菌数と対数増殖開始時間の関係を解析し、仮設の正しさを証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症蔓延のため年度末の研究が滞ったためである。この研究費は次年度、新型コロナウイルス感染症が概ね沈静化した後に使用し、研究成果をあげるために使用する。
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