昨年度の検討で、同位体ラベリングされた細胞外高分子有機物を創出する手法を構築し、確かにラベリングされていることを同位体顕微鏡を用いて確認した。本年度は、このようにして作製した細胞外高分子有機物(フミン画分)とカビ臭物質(MIB)を用いて活性炭吸着実験を行い、共存有機物が存在するとカビ臭物質の活性炭吸着が阻害されるメカニズムについて議論を試みた。 フミンによるMIBの吸着阻害には、(1) MIBとフミンが活性炭細孔表面の吸着座を奪い合う「競合吸着」と、(2) フミンが活性炭表面近くの細孔に吸着することにより、MIBがその奥に存在する細孔へ到達できなくなる「細孔閉塞」の2つのメカニズムが提唱されている。「競合吸着」が支配的であれば、フミン添加の順序に関わらず同程度の吸着阻害(すなわち、同程度のMIB残存率)が期待される。そこで、フミンとMIBの活性炭への添加順を代える実験を行ったところ、フミンをMIBの前に吸着させた場合の方が、あと二吸着させた場合より、MIB吸着阻害が大きくなった。すなわち、「細孔閉塞」が支配的であろうと推察された。そこで、フミン吸着後の活性炭粒子を同位体顕微鏡で観察したところ、フミンは活性炭の外表付近に主に吸着されていることが分かり、上記の仮説が支持された。同位体ラベリングされていない天然のフミンでは、活性炭が含有するCやNとの分別観察ができないため、「どこ」に吸着されているのかが判断できなかったが、同位体ラベリングされたフミンを創造し同位体顕微鏡で観察することにより、「どこ」に吸着されているのかを明らかにすることができた。従って、同様の手法を膜ファウリングの分析に用いることにより、そのメカニズム解明へと繋がる可能性が強く示された。
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