研究課題/領域番号 |
19K21985
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 典之 東京大学, 環境安全研究センター, 教授 (30292890)
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研究分担者 |
飛野 智宏 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (90624916)
清 和成 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (80324177)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 衛生害虫 / 衛生害獣 / 雨水排除 / 環境DNA / 低分子化合物 |
研究実績の概要 |
本年度は、本課題で最も重要である衛生害虫・害獣遺伝子の高感度検出手法の検討に注力して研究を進めた。 異なる種類のモデル衛生動物として、げっ歯類(マウスおよびラット)と住血吸虫中間宿主貝の二種を選定し、それぞれに検出のための条件検討などを進めた。 げっ歯類の既存の遺伝子情報よりマウスおよびラットの種特異プライマーを設計し、体毛および糞中のDNAを定量した結果、マウス体毛3.52×10^9 copies/g、マウス糞2.33×10^8 copies/g、ラット体毛9.02×10^8 copies/g、ラット糞1.49×10^9 copies/g であった。これらの結果は環境試料分析時の原単位として利用が期待できる。また、雨天時流出を模擬した実験室操作による回収の検討を行った。具体的には、マウスおよびラットの糞を添加した土壌に水を入れて撹拌、静置後の上澄みを模擬流出水とし、DNAを定量した。添加量に対する回収率はマウス0.64%、ラットは0.05%であった。 住血吸虫の中間宿主貝については、飼育水槽水から環境DNAのろ過濃縮、抽出方法を検討した。ろ紙素材、ろ紙孔径、ろ過水量、ろ過圧をそれぞれ3条件で比較検討し、回収された環境DNAの濃度とPCRによる中間宿主貝の検出結果を基に、孔径0.8μmのセルロースアセテート製ろ紙を用い、100 mLの試料水を20 kPaで吸引ろ過する方法を確立した。また、この方法で環境RNAも濃縮、抽出できることを確認した。次いで、中間宿主貝の存否に係る時間的検出感度を評価したところ、中間宿主貝の出現に対しては環境DNA、環境RNAともに1日後には検出され、同等であったのに対し、中間宿主貝の消失に対しては、環境RNAの方が高感度であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衛生害虫・害獣遺伝子の高感度検出手法の検討として、水試料からの環境DNAのろ過濃縮、抽出方法を確立した。衛生動物由来環境DNA検出のためのPCRプライマー等の設計検討については、マダニ、ハマダラ蚊、ネッタイシマ蚊を標的としたプライマーが数多く報告されており、さらにマウス、ラットについては新たに種特異的プライマーを設計し、それらの中から今回の研究目的に合致するものを検討、選定した上で、合成済みである。ラット・マウス由来試料(糞・体毛)からの遺伝子抽出・定量を行い環境調査時の原単位となりうるデータを得ることができた。また、当初の予定にはなかったが、確立した環境DNAのろ過濃縮、抽出方法で環境RNAも濃縮、抽出できることを確認でき、環境DNAと環境RNAの時間的感度も評価できた。 雨水排除システムを想定した模擬試料への添加回収実験により、衛生動物由来DNAを検出することができた。 これらのことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き各種の衛生動物のためのプライマーを用いて標的衛生動物の検出の確認を行い、その定量可能性を評価する。初年度にラットやマウスの糞を用いて行ったように、標的衛生動物由来の標準試料を添加し環境試料から、1年目に確立した方法によって環境DNA、環境RNAをろ過濃縮、抽出し、手法の適用可能性を評価し、衛生動物由来環境DNA、環境RNAの高感度検出・定量手法として確立する。合わせて、環境DNA解析を補完・検証するものとして、標準試料中の化学成分の網羅分析を実施しマーカー物質の探索を行う。 雨水排除システム由来試料を用いて、衛生動物の痕跡の検出の可否を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、第一に新型コロナウイルス感染症拡大により、現場試料採取のための出張および成果発表のための出張が中止となったことがある。また実験操作条件(環境DNAのろ過濃縮、抽出方法等)の検討が想定以上に効率的に実施できたことも一因として挙げられる。 これらの次年度使用額は、予定していた調査及び成果発表を次年度に実施することで必要となる。また、当初予定していた環境DNA検出、定量に加え、環境RNAでも同様の条件検討を行うために使用予定である。
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