研究課題
農薬や医薬品などの有機微量汚染物質(OMP)は水生生物やヒトにとって有害であり、水処理によって十分に除去されることが望ましい。しかし、現代社会で日々新たな化合物が開発・利用されていく中で、その種類は今後も増加の一途を辿ることが予想される。また、高度処理ではOMPから生物毒性のある変換生成物(TP)を生じることがある。分析コストや人的資源を考慮した場合、無数に存在するOMPやTPを室内実験で網羅的に調べるには限界がある。本研究では、量子化学を駆使して高度処理過程でのOMPの反応経路や生成されるTPを明らかにする理論計算法の開発を目的とする。具体的には、OMPの高度処理、すなわちラジカルによる酸化反応を対象に、密度汎関数法等によるTP平衡構造の推定やOMPの反応経路解析を行う。さらに、質量分析などの室内実験結果と比較検討し、理論計算の精度向上を目指す。今年度の研究では、ヒドロキシラジカルによるフェノールの酸化分解反応を対象とし、量子化学計算を行い実施した。具体的には、HF、B3LYP、M062Xなどの異なる計算レベルで、ラジカル反応や求電子反応における酸化剤との反応機構を調べた。そして、福井指標により電荷密度を計算・比較した結果、フェノールへのヒドロキシラジカル付加反応についてはB3LYP>M062X>HFの順で計算精度が高いことが明らかとなった。また、本研究では、フェノール酸化分解反応に対して反応経路最適化計算による反応速度定数の算出も試みている。当該研究では、フェノールがカテコールまでに変換される酸化過程を対象としたが、次年度以降は、同手法を他の微量汚染物質等に拡張することで、種々の汚染物質の分解メカニズムや反応経路の理論的推定に挑戦する。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度では、量子化学による理論計算手法の基礎を築くため、密度汎関数法等など複数の計算レベルにおいて、有機汚染物質の分解経路の計算精度を検証した。さらに、最も高い計算精度を示したB3LYPを用いて、フェノールのヒドロキシラジカルによる分解経路や分解反応速度の理論計算を実施することができた。従って、研究初年度の研究計画である理論的な反応経路解析法の確立を達成しており、おおむね順調に進んでいると判断する。
次年度の研究では、当初の研究計画通り、初年度に構築した理論計算を他の微量有機物に拡張するとともに、理論計算値と質量分析・毒性データの比較・検討、定量的構造・活性相関等も活用することにより、反応中間生成物の毒性評価や効果的な処理法の提案につなげる。
翌年度の実験消耗品の一部として使用するため、次年度使用が生じた。
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Journal of Japan Society of Civil Engineers, Ser. G (Environmental Research)
巻: 75 ページ: III_225~III_235
https://doi.org/10.2208/jscejer.75.7_III_225
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