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本研究では，地球温暖化推計情報を用いた河川流量推定の新たな展開として，現状の河川流量を高精度に再現しうる精緻な数値モデルを構築し，観測値とみなしうる参照データとなる流出量を数値計算によって生成すること，また，参照データとする流出量に基づいて地球温暖化推計情報の流出量をバイアス補正する手法を開発することを目的としている．当該研究課題では前述のふたつの目的を概ね達成してきたが，観測値とみなしうる参照データとなる流出量を用いて推定した河川流量は，低水部において過小評価であることが課題であった．
そこで当該年度には，河川流量を推定する数値モデルを改良し，低水部から高水部までを精度よく再現できるように高度化した．具体的には，より深い土層厚を数値モデルに設定することで低水部の過小評価を改善した．新たに設定された土層厚は10m以上であり，これまで妥当と考えられてきた土層厚よりも深い設定であった．これは，河川流量の低水部では地下水からの流出が重要であるにも関わらず，数値モデルでは地下水を考慮できていないため，土層厚を深く設定することによって便宜的に地下水の効果を表現しているのではないか，と考察している．この結果の妥当性は，今後，地下水を考慮した数値モデルとの比較によって検証する必要がある．
当該年度で新たに作成された流出量の参照データを用いて，九州地方の2流域（大淀川・筑後川）を対象に河川流量を推定したところ，高水部から低水部に至るまで高い再現性を示した．この流出量に基づいて，MRI-AGCM3.2Sが出力する現在気候再現計算結果の流出量をバイアス補正して河川流量を求めた結果，高水部から低水部に至るまで，精度よくバイアスを補正できることがわかった．以上より，当該研究課題の目的は十分に達成されたと判断できる．
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