研究実績の概要 |
最終年度となるR2年度では,気候変動下の遺伝的多様性予測モデルの開発を行った。対象流域は宮城県名取川流域として4種の水生昆虫のモデルシミュレーションを行った.まずIPCC第5次評価報告書による気候変動シナリオ(RCP2.6, RCP4.5, RCP8.5)における将来(2031-2050, 2081-2100)の降水量・気温データを取得し,分布型流出・水温モデルにより,将来期間それぞれの1年間における水深,流速,水温データを算定した.これらの水文データと地理データを用いて,機械学習による生態系ニッチモデル(生息適正度指数モデル)を種ごとに作成し,気候変動下の生息分布を予測した。また,各種の選択性遺伝子座を対象に昨年度に開発した適応進化モデルを適用して遺伝子頻度を計算した.さらに,残りの中立遺伝子座は遺伝子頻度の空間分布は固定されているとして,選択性遺伝子座と中立遺伝子座のそれぞれにおける遺伝子頻度を推定した。そして,各地点のヘテロ接合度Heを求め,地点間の遺伝距離に基づいて UPGMAクラスターも求めて,遺伝的多様性と遺伝的類似集団を可視化した. 生態や生息範囲が異なる4種のうち、Ephemera japonica (Ephemeroptera) は後端の生息地(すなわち下流)を失ったが、遺伝的救済により適応的な遺伝的多様性を維持した。一方、上流に生息するHydropsyche albicephala(三枚貝)の範囲と多様性は劇的に減少した。これまでの研究では、環境勾配に沿って対立遺伝子の頻度の空間分布を変化させるような、集団の適応的な遺伝的進化はほとんど見落とされていた(すなわち、遺伝的救済)。本研究の結果は、種固有の局所的な適応の程度に応じて、遺伝的救済が起こりうる可能性を示唆している。
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