研究課題/領域番号 |
19K21999
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森 傑 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80333631)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 住民移転 / 再定住 / コミュニティ / 災害 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
今日のアジア太平洋地域は、東日本大震災などの自然災害を機とするものに限らず、気候変動による長期的な海面上昇、人口集中によるスラム化、急激な経済成長によるエネルギー需要などを機に、住民移転を検討せざるを得ない喫緊のグローバルな問題に直面している。コミュニティ移転は環境志向で適正規模の居住環境の再構築へ向けての実効的な再定住手法として注目されており、地域社会のサステナビリティを考える上で有効な計画論とそのモデルの検討が必要である。 本研究は、アジア太平洋地域において大災害や気候変動、都市開発などを機に実施されている住民移転について、住民自身の自発的な居住地の選択としての移転(Voluntary Relocation)ではなく、公的機関やNGOなどの支援団体により資金が投入され計画的あるいは強制的に住民移転が実施されるケース(Forced Displacement and Resettlement)に注目し、当該住民が新たな生活環境に対してどのように適合してきたのかについて環境移行理論の視点から分析することを目的とする。 2年間の実施計画として、1.アジア太平洋地域のパイロット的事例における移転計画の特徴の比較、2.環境移行理論に基づく生活者(移転者)の環境適応プロセスの分析、3.生活者の定着実態からみた既存計画手法の空間的・制度的限界の考察、の課題群に取り組むが、令和3年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により海外調査ができなかったため、国内におけるコミュニティ移転および災害復興に関わるパイロット的事例の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により補助事業期間の延長を申請した。 (1)気仙沼市小泉地区(津波災害に伴う強制移転)/小泉地区は東日本大震災の津波被害を受け高台へ集団移転を行った。被災者の入居後、空き区画への小泉地区以外からの入居も始まっている。小泉地区では、震災以前から過疎化や少子高齢化の一途をたどってきた。震災を機に住民が認識するコミュニティ感も変化していると想定されるため、住民の日常における近所づきあいなどに注目し、当事者である住民からみたコミュニティ及びそれを取り巻く状況や性質について考察した。 (2)北海道厚真町および安平町/北海道胆振東部地震の被災者の生活再建では、災害救助法に基づき、被災者の敷地内に移設が可能な住宅(移設型仮設住宅)を提供することが試みられた。移設型仮設住宅の私有地への導入は、職住一体の生活を維持した再建を可能にし、今後も特に農村地域において災害発生時に有効な公的支援策となり得る。移設型仮設住宅を利用した生活再建の実態を詳細に理解することで、今後の被災者の生活再建に資する仮設住宅整備の可能性について検討した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、令和3年度も令和2年度に続き予定していた現地調査が実施できなかった。令和4年度は、上述の課題群1から3に対して、フィリピンおよびフィジーのパイロット的事例のフィールド調査を実施し、移転を強いられた住民の再定住とコミュニティの再生を目標に適用された空間的・制度的手法の効果と妥当性について、特に住民の環境適応過程のあり方に照らして評価・検証する。それらの成果に基づき、自立的・持続的な居住環境を再構築するための新たな計画論的方策の開拓へ向けての萌芽的知見を得ることを目指す。 (3)フィリピン Tacloban North Villages(大規模災害による沿岸部から内陸への復興移転)/2013年のヨランダ台風により甚大な被害を受けたタクロバン市では、沿岸部の高潮で被災した住民の内陸への復興移転を進めている。全体で約17,000戸の供給計画であるが、2018年6月の時点で入居割合は約35%にとどまる。Tacloban North Villagesは、市が空港拡張のための住民移転用に確保していた既存公用地へ市と国がインフラ整備を行い、複数のNGOが住宅を供給する官民連携と、被災住民のセルフブルドとHOA(住宅所有者組織)の導入に特徴がある。 (4)フィジー Vunidogoloa(気候変動・海面上昇に伴う居住地消失に備えた事前移転)/フィジー全体で気候変動により600以上の集落が影響を受けており、政府は45の集落を移転させる計画を声明している。Vunidogoloaは海面上昇の危険によりフィジーで初めてコミュニティ移転を実施した集落であり、2014年に従来の集落位置から2km内陸への30戸の移転を完了した。既存コミュニティが移転先の立地と近隣関係の持続を希望しそれが実現された点に特徴がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、海外出張が全て中止となったため、補助事業期間の延長を申請した。令和2年度から令和3年度に計画していたフィールド調査等を、令和4年度に実施する計画である。
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