本研究は、数値解析により予測された高高度での電磁力エアロブレーキングで発現する臨界高度の存在を実証し、その発現機構の解明を目指している。臨界高度の発現のためは、機体前方の衝撃層の内部のみが電離(実際の大気圏突入流と同じ状況)する必要があり、本研究では以下の3項目、「1.大気圏突入流を忠実に再現可能な膨張波管を用いて臨界高度を実証」、「2.大型空気アーク気流(電離していない)を用いて、衝撃層内のみを人工的に電離させ、臨界高度の状況を模擬」、「3.高高度の希薄電離流を模擬できるプラズマ風洞を用いて、臨界高度の存在要因であるホール効果を検証」、を実施した。1の膨張波管実験では、JAXAの大型装置を用いて、磁化模型前方の衝撃層の自発光を計測した。コロナ禍により1回のみの実験機会のため、検証不足ではあるが、磁場の有無で発光強度の違いを確認できた。一方、この実験を数値解析で検証したところ、気流密度が濃すぎるため、臨界高度を実証するためには、ノズルを用いて低密度の膨張波管気流を生成する必要があることがわかった。2の大型アーク気流実験では、電離エネルギーが小さく、かつイオンが発光しやすい硫酸バリウムを搭載した磁化模型を開発し、衝撃層内の発光分光と自発光計測を実施した。その結果、衝撃層内で強いバリウムイオン発光を捉え、発光領域の増大(衝撃層の増大)を捉えることに成功した。3の希薄プラズマ風洞実験では、レーザートムソン散乱法を用いて電子温度を計測した。その結果、数値解析予想と定量的に一致する電子温度上昇を捉えることに成功し、臨界高度機構の引き金となるホール効果に起因するジュール加熱が起こっていることを実証した。以上より、臨界高度の実証はまだ道半ばであるものも、その重要なパーツである衝撃層内電離による電磁力発動、およびホール効果に起因するジュール加熱の補足に成功した。
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