研究課題/領域番号 |
19K22019
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80249937)
|
研究分担者 |
十川 悟 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (50822136)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 着霜 / 超撥水性 / 熱交換器 / 空調・冷凍機 / 陽極酸化法 |
研究実績の概要 |
2019年度は、空調機や冷凍機に用いられるアルミニウム(Al)材を用いて、超撥水Al材による着霜遅延効果の基礎的研究を行った。Al平板に陽極酸化処理及びフッ素付与処理を実施し、接触角150度を超える材料を作製した。それを精密空調機に接続された低速風洞内に水平に設置し、ペルチェ素子を用いて-8℃及び-40℃に冷却した。なお、風洞内の条件は温度20度、相対湿度60%、風速1m/sである。この実験では霜質量と、平板に対して側方及び上方からの画像データを取得し、後に霜層厚さ、霜層密度を算出した。 その結果、冷却面温度-40℃のときには、超撥水材と非処理材で霜質量、霜層厚さ、霜層密度に大きな違いは見られなかった。また、画像での観察においては、水蒸気が直接霜へと相変化する現象が確認された。一方、冷却面温度-8℃では水蒸気が凝縮し水滴が生成、1つの水滴が凍結し、他の水滴へと伝播することで霜へと相変化する過程が観察された。実験開始後、1つの水滴が凍結し始めるまでの時間を凍結開始時間、1つの水滴が凍結し始め、全ての水滴が凍結し終えるまでの時間を凍結伝播時間とし、これらを合わせた時間を凍結時間とする。超撥水材と非処理材で比較する(-8℃の場合)と、超撥水材の方が凍結開始時間は122秒から1157秒へと、凍結伝播時間は1.0秒から275秒へと大幅に長くなった。また、凍結時間は非処理材において123秒、超撥水材において1432秒であり、本研究にて作製した材料は大幅な着霜遅延を生じさせることが分かった。さらには、複数回実験を行った中には30分を超えても凍結が開始しない結果も得られた。本実験で得られた結果は陽極酸化処理による超撥水Al材が氷点付近において大きな着霜遅延効果を有していることを示す結果である。また、今後、円管や熱交換器などの形状における着霜遅延効果を研究する上で大変意義が大きいと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の1つである「アルミニウム製熱交換器の着霜問題解決」についての研究を進め、陽極酸化処理による超撥水アルミニウム材を用いた実験から氷点付近の温度において大幅な着霜遅延効果を見出すことができた。また、より着霜遅延効果を得るために、陽極酸化処理の見直しを検討しており、その準備を行ってきた。今までは陽極酸化被膜厚さや表面形態を測定、観察する装置及び経験がなかったため、今年度、断面試料研磨機やそれに付随する給水設備や排水設備を導入し、材料の断面を観察するための樹脂埋込試料を作製する訓練を続けてきた。断面試料の作製には多くの経験が必要とされており、正確な膜厚や表面形態の取得には経験が必要である。これにより、今まで未知であった膜厚や表面形態が分かるようになった。また、陽極酸化被膜を電子顕微鏡で観察する前の簡易観察として利用できる金属反射顕微鏡の導入や陽極酸化処理中の印加電圧、印加電流、反応浴温度を記録するためのデータロガーの設置を行った。今までの各種設備の準備により、より定量的で正確なデータが得られるようになった。 以上に述べた通り、本研究の目的の1つである「ステンレス材への陽極酸化手法の確立」の研究を行うための準備を順調に進めている。アルミニウム材を用いた研究に関しては、氷点付近でのデータを取得しているが、冷凍機などで利用されるより低い温度域でのデータを今後取得する必要があるため、それに向けた実験手法を検討した。 数値解析による着霜量の予測に関しては、古典的核形成理論を用いた霜層成長シミュレーターの研究・開発を行ってきた。現在までは平板においての霜層成長予測について研究、妥当性検証を進めており、今後さらなる改良を行う必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は超撥水アルミニウム材の着霜遅延効果の検証のためにより低い温度域で着霜実験を行う予定である。氷点付近でのデータは取得できたので、中温域(-60℃程度)や極低温域(-196℃)で着霜試験を行い、温度と着霜遅延効果の関係性を取得する。今までと同様な平板を用いた実験に加え、円管を用い強制対流下での実験を行い、超撥水性により霜の付着力低下が着霜抑制に及ぼす影響について調査する。アルミニウムの陽極酸化処理手法に関しては硫酸を用いて行っていたものを、塩酸やりん酸に変えて行い、今までとは異なる表面形態の材料を作製し、着霜試験を行うことで着霜低減により効果的な条件を見出す。2020年度中旬からは液体水素配管等に用いられるステンレス材への陽極酸化手法の確立に関する研究を開始する。まずは、反応溶液の種類、濃度、印加電圧をパラメトリックに変えて実験を行い、金属反射顕微鏡及び電子顕微鏡による表面、断面観察にて評価する。ステンレス材に対する陽極酸化手法に関しては詳細に検討された先行研究例が無いため、陽極酸化処理に関する各種パラメータが材料にどのような影響を与えるのか調査する。これらのデータからステンレス材への陽極酸化処理の方策を改めて検討する。霜層成長シミュレーターの開発においては、実験結果と計算結果で定性的には一致しているものの、定量的には一致していない。今後は霜層の成長とともに霜層密度が変化していくことを考慮し、定量的に一致するシミュレーターの開発を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
会計締切日直近で80円で購入できるものが無かったため。消耗品購入に充当する。
|