研究課題/領域番号 |
19K22020
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
船木 一幸 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (50311171)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 電気推進 / ホローカソード / スパッタリング / 単結晶素材 / 長寿命 |
研究実績の概要 |
イオンエンジン等の宇宙機用電気推進機には、一層の長時間動作とこれに基づく宇宙機軌道変換能力の向上が求められている。本研究では、電気推進機の寿命を律速している電子源を無損耗化するため、電子放出を担う部位への単結晶材料の適用可能性を追求する。研究の実施にあたり、単結晶材料において原子配向が同一である特性によって、低エネルギーキセノンイオンが材料に衝突する際の損耗を無くすことが可能であるという仮説を立て、仮説の実験的検証を図る。 2019年度は、単結晶素材へ入射するキセノンイオンに対する損耗特性(スパッタ収量特性)を取得すると共に、ホローカソードとしての連続作動により、基準となる多結晶材料各部位の損耗率を得た。ここで評価するスパッタ収量とは、金属表面にイオン1個が垂直に衝突する際に叩き出される原子の数で定義され、材料表面へ入射するイオンのエネルギー(=イオンの速度)に依存する。本研究では、28eVの閾値を数eV高め、カソードで発生するイオン(10~30eV) に対して無損耗であることを目指しており、実験では、電子を供給するオリフィス部位に用いられるタングステン材料について、単結晶と多結晶のものを用意して、試験期間中にテストピー スが受ける重量変化を測定することで、キセノン低エネルギーイオン入射領域における単位時間あたりの損耗量とスパッタ収量を測定した。しかし、これまでのところ、単結晶と多結晶の素材間での損耗について有意な差は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で実施予定の2つの項目である、1)単結晶素材の損耗率の測定、ならびに、2)ホローカソード形態での材料各部位の損耗率測定、が順調に進捗しているため。 単結晶と多結晶素材の差異が小さいことから、これを見極めるための実験系の精度向上を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
単結晶素材へ入射するキセノンイオンに対する損耗特性(スパッタ収量特性)を引き続き取得し、損耗回避のために最適な配向と損耗限界を明らかにする。また、ホローカソードのオリフィスならびにインサート部位を単結晶化した「単結晶化ホローカソード」を製作し、多結晶の従来品との比較から、単結晶部材の損耗改善状況を計測する。このホローカソード実験では、ヒーターにより一旦インサートを高温化させ、インサートから電子放出が始まった状態でカソード・陽極(アノード)間に印加された電圧にて放電とこれに伴うプラズマ生成が開始し、その後インサートはプラズマから加熱を受けるため、プラズマ点火後はヒーター動作無しで自立した放電(電子の供給)が可能となる。なお、利用する実験系は従来研究室で開発したものを用いるが、ホローカソードについては単結晶素材に置き換えたものを新規製作する。その上で、旧来からの多結晶素材のホローカソードと、新しい単結晶素材ホローカソードについて、連続運転時の各部位の損耗率の比較を行う。以上の結果から単結晶ホローカソードにて無損耗状態が実現できるかを見極める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に実施した単結晶素材へ入射するキセノンイオンに対する損耗特性(スパッタ収量特性)評価実験では、単結晶と多結晶の素材間での損耗について有意な差は得られていない。このため、測定精度等の改良が必要となり、試験片の購入数を変更(減少)し、次年度に設備の設計変更と改修を実施、再度計測等を行うこととした。
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