森林火災の件数,被害が世界的に急増しており,気候変動が主要因とされている.また,森林火災により大量の二酸化炭素が放出されることから,森林火災と温暖化の間に負のスパイラルが存在していると言うこともできる.森林火災に対する消火活動を効果的にするためには,森林火災の延焼シミュレーションが大きな力を発揮する.延焼挙動や,消火活動の効果をシミュレーションで予測できれば,消火活動の効率を飛躍的に向上させられる.一方,現在広く用いられている延焼シミュレーターには,火災規模が大きくなるほど延焼速度を過小評価しやすくなるものがある.これは,火災前線における燃焼ダイナミクスが正確に考慮されていないため,延焼速度のスケール効果を正しく再現できないものと考えられる. 本研究では延焼速度に影響を及ぼす燃焼ダイナミクスとして,火災旋風をはじめとした渦現象に着目した.これらの現象が発生すると,局所的な発熱速度が急上昇したり,延焼方向が急に変化したりする.そこで,これらの現象が発生するメカニズムを解明し,さらに誘起される流れや発熱速度の上昇について詳細に調べた.そして,これらの因子を組み込んだ延焼シミュレーターの開発を行った. 燃焼ダイナミクスに関する検討のために,実験室規模の風洞実験と,より大規模な野外実験を実施した.また,数値流体力学シミュレーションも併せて実施し,流れ場の変化等を詳細に検討した.その結果,火災旋風の発生は渦層の巻き上がりと似た現象であることなどを明らかにした.これらの知見を組み込んだ延焼シミュレーターを作成するため,有風下において延焼領域が拡大する様子を数値計算できるモデルを構築した. 以上に述べた研究のうち最終年度実施したものは,野外実験および数値流体力学シミュレーションによる燃焼ダイナミクスの検討,そして局所的発熱速度上昇を延焼シミュレーターに組み込む方法論の検討である.
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